2021-01-01から1年間の記事一覧

庭についての二冊

梅津忠雄『愛の庭―キリスト教美術探究』(日本基督教団出版局 1981年) ジャック・ブノワ=メシャン河野鶴代/横山正訳『人間の庭』(思索社 1985年) 庭という言葉がタイトルにある本を適当に選んだら、かなり色合いの異なる本が二冊並んでしまいました。『…

HENRI DE RÉGNIER『L’ESCAPADE』(アンリ・ド・レニエ『束の間の逃避行』)

HENRI DE RÉGNIER『L’ESCAPADE』(MERCURE DE FRANCE 1926年) 5年ほど前、パリのブラッサンス公園の古本市で買った本。レニエの後期の長編小説です。人物造形、ストーリー展開、話を面白くするような筆運びなど、ハーレクイン・ロマンスのような大衆小説の…

ジャン・ドリュモー『地上の楽園』

ジャン・ドリュモー西澤文昭/小野潮訳『楽園の歴史① 地上の楽園』(新評論 2000年) 前回に引き続き楽園についての本。これは楽園がどう誕生し、どう考えられてきたかを文献に基づいて歴史的に展望した書物です。全体の構成もしっかりしていて、この本を一冊…

マーリオ・ヤコービ『楽園願望』

マーリオ・ヤコービ松代洋一訳『楽園願望』(紀伊國屋書店 1988年) 今回と次回は、楽園についての本を取りあげます。まず、楽園願望をユング派精神分析の立場から解説したこの本から。歴史、文学、文化人類学の知見も交えながら、人間の本性を深く掘り下げ…

フランスから古本届く

フランスに発注していた古本が、船便のはずにもかかわらず早々と届きました。価格は送料込み。 Georges-Olivier Châteaureynaud『Le Jardin dans l’île et autres nouvelles』(Librio、96年11月、1127円) NOËL DEVAULX『LA DAME DE MURCIE』(GALLIMARD、8…

雑誌「is 特集:庭園」

「is 特集:庭園」(ポーラ文化研究所 1984年) 「is」は何冊か所持しております。執筆者に私好みの人が多く、また毎回取り上げられているテーマも面白そうですが、読んでおりませんでした。よく考えてみると、昔は忙しかったせいか雑誌はパラパラ見をするぐ…

DANIEL MALLINUS『MYRTIS et autres histoires de nuit et de peur』(ダニエル・マリニュス『ミルティス―夜と恐怖の物語集』)

DANIEL MALLINUS『MYRTIS et autres histoires de nuit et de peur』(marabout 1973年) この本は昔の思い出深いパリ古本ツアーで、「L’Amour du Noir」という店を見つけて爆買いをしたうちの1冊(2012年7月16日記事参照)。 Maraboutの幻想小説叢書はライ…

「ユリイカ 特集:空中庭園」

「ユリイカ 特集:空中庭園」(青土社 1996年) 建築のテーマからの流れで、これからしばらく庭についての本を読みたいと思います。まず建築と庭の両要素を兼ね備えた空中庭園から。というのはバビロンにあったという空中庭園は幾重にも層をなした露壇に土を…

建築に関する本二冊

函 中 植田実『真夜中の家―絵本空間論』(住まいの図書館出版局 1989年) 澁澤龍彦『城―夢想と現実のモニュメント』(白水社 1981年) 異質な二冊ですが、建築関連で同時期に読んだので、一緒に取りあげました。『真夜中の家』は先日読んだ『真夜中の庭』の…

Jacques Sternberg『Le coeur froid』(ジャック・ステルンベルグ『冷酷』)

Jacques Sternberg『Le coeur froid』(CHRISTIAN BOURGOIS 10/18 1973年) ジャック・ステルンベルグは、シュネデールの『フランス幻想文学史』でもバロニアンの『フランス幻想文学展望』でも取り上げられている作家ですが、いずれにもこの作品への言及はあ…

幻想の建築に関する二冊

坂崎乙郎『幻想の建築』(鹿島出版会 1969年) 「ユリイカ 特集:幻想の建築―〈空間〉と文学」(青土社 1983年) 「幻想の建築」という題のある本を二冊読んでみました。片方は、建築に関連した幻想美術について、塔、回廊、室内、庭園、牢獄、宮殿、大伽藍…

「詩と詩論 無限」のバックナンバー3冊ほか

「詩と詩論 無限」は、特集形式を採用し、その分野の第一人者や気鋭の論者を集めて集中的に議論するという編集スタイルで、その後の「詩と批評 ユリイカ」などにつながっているように思います。驚くのは、文学臭が濃くかなりマイナーなテーマなのに、一般企…

ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』

ウィル・ワイルズ茂木健訳『時間のないホテル』(東京創元社 2017年) タイトルと表紙の絵に惹かれて購入した本。次元SFの一種ですが建築幻想小説のジャンルに入るものと思います。「あとがき」によると、著者は建築やデザイン畑のノンフィクション・ライタ…

Jean Lorrain『LES LÉPILLIER』(ジャン・ロラン『レピリエ一家』)

Jean Lorrain『LES LÉPILLIER』(DU LÉROT 1999年) 長編「Les Lépillier」と、4つの短編「Madame Herbaud(エルボー夫人)」、「Un coup de fusil(発砲)」、「Dans un boudoir(婦人部屋にて)」、「Installation(引っ越し)」が収められています。初版…

高層ビル都市が舞台の小説二作品

ヤン・ヴァイス深見弾訳『迷宮1000』(創元推理文庫 1987年) JAN WEISS『la maison aux mille étages―L’humanité prise au piège(1000階の家―罠にかかった人類)』(MARABOUT 1967年) テア・フォン・ハルボウ秦豊吉譯『メトロポリス』(改造社 1928年) …

建物に関連した幻想文学についての二冊

「幻想文学48 特集:建築幻想文学館」(アトリエOCTA 1996年) 植田実『真夜中の庭―物語にひそむ建築』(みすず書房 2011年) 建築の本の続きですが、しばらく物語の世界に入って行きたいと思います。その道案内となる本を二冊読みました。「幻想文学48」は…

建築に関する本二冊

上田篤『日本人の心と建築の歴史』(鹿島出版会 2006年) 岡野忠幸『建築古事記』(東京美術 1973年) 先日読んだ李家正文の『異国思想の伝来と日本の宗教』のなかにあった神社など日本の建物についての記述が面白く興味が湧いたので、日本建築に関連した本…

李家正文『古代東アジアに遡る』

李家正文『古代東アジアに遡る』(泰流社 1987年) 引き続き李家正文を読みました。前に読んだ『史伝開眼』と同じく、いくつかのテーマを並列に論じたもので、古代東アジアで腰帯にぶらさげていたもの、仏具が金色な訳、異国の花嫁、去勢された男性の実態、…

4月5月は続々と古本市中止

大阪兵庫京都と緊急事態宣言が発令され、楽しみにしていた四天王寺、京都勧業館の古本市が次々と中止になりました。次は下鴨の納涼古本市に期待するしかないでしょうか。そんなことで、今回はほそぼそとネットで買いためた本の報告。 オークションでは、長年…

Jean Lorrain『MA PETITE VILLE―SOUVENIRS DE PÉRONNE』(ジャン・ロラン『私の小さな町―ペロンヌの思い出』)

Jean Lorrain『MA PETITE VILLE―SOUVENIRS DE PÉRONNE』(la Vague verte 2003年) 『Venise』に引き続いて、土地にまつわる思い出の書を読んでみました。1898年に300部のみ出版されたものの改訂版で、80ページほどの小冊子。「Ma Petite Ville」、「Le Mira…

李家正文の本二冊

李家正文『異国思想の伝来と日本の宗教』(泰流社 1988年) 李家正文『史伝開眼―東アジアのカーテンを開く』(泰流社 1993年) 道教の日本への影響に関連して、本棚にあった李家正文の本を二冊引っ張り出してみました。『異国思想の伝来と日本の宗教』のほう…

Jean Lorrain『Venise』(ジャン・ロラン『ヴェニス』)

Jean Lorrain『Venise』(La Bibliothèque 1997年) 今回は、90ページほどの薄っぺらい本ですが、やたらとイタリア語やヴェニスの建物の固有名詞が出てくるので読みにくい。1905年に「絵入り雑誌」に寄稿したヴェニスについてのエッセイと、1898年から1904年…

何かの気配を感じさせる音楽 その⑥

しばらく間が空いてしまいましたが、いよいよドイツ・オーストリアの作曲家篇に移ります。ドイツとなると作曲家の数、作品の数が膨大で、私のようにたまにしか音楽を聴かない者には、網羅的な展望はとてもできませんが、気付いた範囲で気配の音楽を探したい…

福永光司『「馬」の文化と「船」の文化』

福永光司『「馬」の文化と「船」の文化―古代日本と中国文化』(人文書院 1996年) 前回に続いて福永光司の本。中国の北方文化と江南文化の比較、老荘思想、徐福伝説、道教の様々なシンボル、八幡大神、中国歴代皇帝と道教、常世の信仰、墓と廟など、さまざま…

marcel brion『nous avons traversé la montagne』(マルセル・ブリヨン『われわれはその山を通り抜けた』)

marcel brion『nous avons traversé la montagne』(albin michel 1972年) 引き続いてブリヨンを読みました。前回読んだ『Les Vaines Montagnes(辿り着けぬ峰々)』の序文で、奥さんのLiliane Brionが本作に言及して、ブリヨンの最上作品のひとつと書いて…

今年初めて古本市へ行く

ついに今年になって初めて奈良県外へ出ました。古本市も今年初、しかも大阪古書会館の即売会と阪神百貨店古書ノ市の二つの古本市をはしごしました。さすがに寄る年波にどっと疲れて、夜の部の待ち合わせ時間まで持たず、喫茶店で休憩するはめに。自分も出て…

福永光司『道教と古代日本』

福永光司『道教と古代日本』(人文書院 1987年) このところ読んだ『数の文化史を歩く』や『日本史を彩る道教の謎』によく引用されていた本。肝心な説はだいたい読んだことのある話が多かったので、読む順序が逆だったと反省しております。それと、あちこち…

高橋徹/千田稔『日本史を彩る道教の謎』

高橋徹/千田稔『日本史を彩る道教の謎』(日本文芸社 1992年) 先日読んだ田坂昻『数の文化史を歩く』で、日本の古代に道教の影響が色濃くあるという話を読んで興味が湧いたので、ちょうどうまい具合に本棚にあったこの本を引っ張り出してきました。なぜか昨…

吉山浩司『数はどのようにして創られたか』

吉山浩司『数はどのようにして創られたか―中国古代史探究の旅』(私家版 1997年) 昨年、浜松の古本屋で100円で買った本。私家版で、ネットで検索しても著者がどんな方がよく分かりません。たぶん、定年したサラリーマンか歴史の先生でしょう。小説の体裁を…

田坂昻『数の文化史を歩く』

田坂昻『数の文化史を歩く―日本から古代オリエント世界への旅』(風濤社 1993年) 数についての本の続き。久しぶりにわくわくする読書の楽しみがありました。何に惹きつけられたか考えてみると、古代の宇宙観・世界観を日本、中国、狭義のオリエント、西洋に…