最近読んだ本

伊藤海彦の二冊

伊藤海彦『季節の濃淡』(国文社 1982年) 伊藤海彦『渚の消息』(湯川書房 1988年) 久しぶりに伊藤海彦を読んでみました。このブログを始める前、2006年頃に、『きれぎれの空』と編著『詩人の肖像』を読んでいますが、自然の風物を織り込んだ詩人らしい抒…

清水茂『詩とミスティック』

清水茂『詩とミスティック』(小沢書店 1996年) 今年に入って、清水茂を、『詩と呼ばれる希望』、『遠いひびき』、『翳のなかの仄明り』と読んできた続きで取り上げてみました。小沢書店らしい瀟洒な造りの本です。内容は、大きく、詩とミスティックをめぐ…

博学系評論二冊

篠田一士『三田の詩人たち』(講談社文芸文庫 2006年) 松浦寿輝『黄昏客思(こうこんかくし)』(文藝春秋 2015年) この二冊も、たまたま続けて読んだというだけで、そんなに共通点はありません。強いて言えば、二人とも大学の文学の先生で、文学芸術全般…

森於菟と上林暁の随筆集

森於菟(池内紀解説)『耄碌寸前』(みすず書房 2011年) 上林暁/山本善行編『文と本と旅と―上林暁精選随筆集』(中公文庫 2022年) この二人は、森於菟が1890年生まれ、上林暁が1902年で、年も少し離れていますし、仕事の畑もまったく違って、何の関係もあ…

中西進『ひらがなでよめばわかる日本語』

中西進『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮文庫 2008年) 入院することがあり、ベッドで寝転がっても読める文庫本を持って行ったので、しばらく文庫本が続きます。日本の古語に疎いので、この本を読んでみたところ、新しく知り得たことが沢山ありました…

清水茂の二冊

清水茂『遠いひびき』(舷燈社 2015年) 清水茂『翳のなかの仄明り―詩についての断想』(青樹社 2004年) 先日読んだ『詩と呼ばれる希望』に続いて、清水茂を読んでみました。『遠いひびき』は、11章のそれぞれが独立したテーマをもった随想集、『翳のなかの…

矢内原伊作『顔について』

矢内原伊作『顔について―矢内原伊作の本 1』(みすず書房 1986年) 前回読んだ清水茂『詩と呼ばれる希望』の解説で、担当編集者が、矢内原伊作と清水茂がともに雑誌「同時代」の同人であり、深い交友があったことについて触れていたこともあり、架蔵してい…

清水茂『詩と呼ばれる希望』

清水茂『詩と呼ばれる希望―ルヴェルディ、ボヌフォワ等をめぐって』(コールサック社 2014年) フランスを舞台にしたエッセーを読んでいたら、なぜか清水茂を読みたくなりました。この本は、清水茂のフランス滞在を題材にした初期エッセイとは違って、副題に…

フランスを舞台にしたエッセー二冊

赤瀬雅子『フランス随想―比較文化的エセー』(秀英書房 2007年) 西出真一郎『木苺の村―フランス文学迷子散歩』(作品社 2010年) フランスへ行くにも、まだロシアの上を飛べないので時間はかかるし、航空料金も高くなってるし、おまけに円安でホテル代も高…

翻訳に関する本二冊

芳賀徹編『翻訳と日本文化』(山川出版社 2000年) 鴻巣友季子『明治大正 翻訳ワンダーランド』(新潮新書 2005年) これまで読んできたのよりは、出版年の新しい本です。これまでとは違った新たな視点があるのが特徴。『翻訳と日本文化』では、書籍にとどま…

吉武好孝『翻訳事始』

吉武好孝『翻訳事始』(早川書房 1995年) 前回読んだ『明治・大正の翻訳史』(初版は1959年)と同じ著者の本。ハヤカワ・ライブラリで1967年に出た初版の再版です。同じ時代の同じ現象を扱っている訳ですから、当然同じ記述がありますが、異なった角度から…

吉武好孝『明治・大正の翻訳史』

吉武好孝『明治・大正の翻訳史』(研究社 1972年) タイトルどおり、明治から大正にかけて外国の小説、評論、詩の翻訳がどう行なわれていったかを、時系列に追ったものですが、それにとどまらず、日本語の文章が翻訳が進むに連れてどう変わっていったか、ま…

野上豐一郎『翻譯論』

野上豐一郎『翻譯論―翻譯の理論と實際』(岩波書店 1938年) 翻訳史でもなく、翻訳作品の解説でもなく、翻訳という行為そのものについて、原理的に考究した本。英文学、能楽の研究者の立場から、具体例を引用しながら、論を展開しています。常識的な発想から…

島田謹二『翻譯文學』

島田謹二『翻譯文學』(至文堂 1951年) 「日本文學教養講座」というシリーズのうちの一冊。このシリーズでは、ほかに『神話傳説説話文學』というのを持っています。島田謹二の本はいろいろ持っていますが、読んだのは『ポーとボードレール』だけ。文章が論…

『近代文学鑑賞講座21 翻訳文学』

河盛好蔵編『近代文学鑑賞講座21 翻訳文学』(角川書店 1969年) これも翻訳文学についての概説書。後半に、代表的な翻訳論を抜粋のかたちで掲載しているのが特徴です。前半は、編者による序論と作品鑑賞となっており、作品鑑賞の部では、随筆、詩、小説、戯…

『翻訳の日本語』

川村二郎/池内紀『日本語の世界15 翻訳の日本語』(中央公論社 1981年) ひと頃、明治・大正期の海外翻訳ものが好きになって、森鴎外、黒岩涙香、森田思軒の翻訳翻案小説、上田敏、日夏耿之介、永井荷風らの訳詩集を読み、勢い余って、翻訳論に関する本もい…

現代詩に関する三冊

渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』(講談社現代新書 2013年) 大岡信+谷川俊太郎『エナジー対話 詩の誕生』(エッソ・スタンダード石油株式会社広報部 1975年) 大岡信×谷川俊太郎『対談 現代詩入門』(中公文庫 1989年) 分かりやすく面白そうだったの…

吉野秀雄『鹿鳴集歌解』

吉野秀雄『鹿鳴集歌解』(中公文庫 1981年) 体調がすぐれず、少し間が空いてしまいました。この歳になると、何かと故障が出てきますので、ブログ公開をお休みすることもこれから起こると思いますが、ご了承ください。今のところ、0と5のつく日に、アップす…

奈良の寺と仏像についての本二冊

竹山道雄『古都遍歴―奈良』(新潮社 1954年) 矢内原伊作『古寺思索の旅』(時事通信社 1983年) 前回に続いて、奈良の寺や仏像に関する本を読んでみました。書影(真ん中)には、『古都遍歴―奈良』の改版(1976年)も入れています。『古寺思索の旅』は、奈…

大和古寺巡礼二作品三冊

和辻哲郎『古寺巡礼』(岩波文庫 1986年) 亀井勝一郎『大和古寺風物誌』(新潮文庫 1997年) 龜井勝一郎『改訂増補 大和古寺風物誌』(養徳社 1946年) 奈良に関する本の続きで、古典的二作品を読んでみました。『古寺巡礼』は会津八一や堀辰雄も影響を受け…

奈良を訪れた文人に関する本二冊

千田稔『奈良・大和を愛したあなたへ』(東方出版 2018年) 堀辰雄『大和路・信濃路』(新潮文庫 1986年) 会津八一を読んだついでに、戦前に奈良を訪れ、奈良へのオマージュを捧げた文人たちについての本を読んでみました。千田稔の本は、41人を取りあげ、…

会津八一に関する本二冊

宮川寅雄『秋艸道人随聞』(中公文庫 1982年) 小笠原忠編著『会津八一と奈良』(宝文館出版 1989年) 10月下旬に、奈良日仏協会の催しで、会津八一の歌碑巡りをすることになりました。その予習を兼ねるのと、これまで奈良のお寺をまわるたびに会津八一の歌…

分身テーマの本二冊

坂井信夫『分身』(矢立出版 1985年) ミヒャエル・エンデ丘沢静也訳『鏡のなかの鏡―迷宮』(岩波書店 1985年) 分身テーマの本はこれが最後となります。二冊に共通するのは、詩的雰囲気でしょうか。『分身』は18篇の詩集であり、『鏡のなかの鏡』は、30篇の…

『書物の王国11 分身』

東雅夫編『書物の王国11 分身』(国書刊行会 1999年) 今回は、国書刊行会の『書物の王国』の一冊。このシリーズは、テーマ別のアンソロジーで、前にもこのシリーズの『夢』を取りあげたとき書いたように、読んだことのある作品も多いですが、未読の中に佳篇…

分身テーマの短篇小説集二冊

マイケル・リチャードソン編・柴田元幸/菅原克也共訳『ダブル/ダブル』(白水社 1991年) 角川書店編『ドッペルゲンガー奇譚集―死を招く影』(角川ホラー文庫 1998年) 海外と日本の分身小説のアンソロジーを読みました。『ダブル/ダブル』のほうは、編集の…

犬飼公之『影の古代』

犬飼公之『影の古代』(桜楓社 1991年) 次は、日本の古代文学のなかで影という言葉がどう使われているかを通して、古代人の感性を考察した本。分身のテーマはそのうちの少しの部分にしか出てきませんが、全体として面白そうなので読んでみました。なじみの…

河合隼雄『影の現象学』

河合隼雄『影の現象学』(講談社学術文庫 2021年) この本も前々回読んだオットー・ランクと同じく、心理学者が書いた本。実際の患者の例も出てきますが、神話や伝説、物語など幅広い素材を用いながら、影について自由に論じています。章立てはありますが、…

クレマン・ロセ『現実とその分身』

クレマン・ロセ金井裕訳『現実とその分身―錯覚にかんする試論』(法政大学出版局 1989年) 今回は、分身についての哲学的考察。途中まで何とかついて行きましたが、後半は皆目分からなくなってしまいました。分身そのものについての記述は少ないというのが印…

オットー・ランク『分身 ドッペルゲンガー』

オットー・ランク有内嘉宏訳『分身 ドッペルゲンガー』(人文書院 1988年) これからしばらく分身や影についての本を読みます。分身テーマについては、学生時代に、改造社の世界大衆文學全集で、シヤミツソオの『影を賣る男の話』(淺野玄府訳)やエエウエル…

夢に関する最後の二冊

ミシェル・レリス細田直孝訳『夜なき夜、昼なき昼』(現代思潮社 1970年) 瀧口修造『三夢三話』(書肆山田 1980年) 長らく夢をテーマとした読書について書いてきましたが、このあたりでいったんけりを付けたいと思います。最後の二冊は、強いてまとまりを…