伊藤海彦の二冊

伊藤海彦『季節の濃淡』(国文社 1982年) 伊藤海彦『渚の消息』(湯川書房 1988年) 久しぶりに伊藤海彦を読んでみました。このブログを始める前、2006年頃に、『きれぎれの空』と編著『詩人の肖像』を読んでいますが、自然の風物を織り込んだ詩人らしい抒…

FRÉDÉRICK TRISTAN『La cendre et la foudre』(フレデリック・トリスタン『灰と雷』)

FRÉDÉRICK TRISTAN『La cendre et la foudre』(BALLAND 1982年) フレデリック・トリスタンを読むのは、これで5冊目だと思います。ネットで見ると、トリスタンの作風には、中国もの、幻想驚異もの、偽史もの、迷宮ものの4種あるとしています。なぜ中国もの…

清水茂『詩とミスティック』

清水茂『詩とミスティック』(小沢書店 1996年) 今年に入って、清水茂を、『詩と呼ばれる希望』、『遠いひびき』、『翳のなかの仄明り』と読んできた続きで取り上げてみました。小沢書店らしい瀟洒な造りの本です。内容は、大きく、詩とミスティックをめぐ…

今年は2ヶ月でまだ7冊

今年初めての古本報告です。今年に入って、特別な古本市もなく、わざわざ古書店に行くにも気乗りがせず、興味のある本を細々とネットで注文するのに留まりました。さすがにこれ以上買ってどうする?という声も内から聞こえてきて、この調子で古本買いもその…

博学系評論二冊

篠田一士『三田の詩人たち』(講談社文芸文庫 2006年) 松浦寿輝『黄昏客思(こうこんかくし)』(文藝春秋 2015年) この二冊も、たまたま続けて読んだというだけで、そんなに共通点はありません。強いて言えば、二人とも大学の文学の先生で、文学芸術全般…

森於菟と上林暁の随筆集

森於菟(池内紀解説)『耄碌寸前』(みすず書房 2011年) 上林暁/山本善行編『文と本と旅と―上林暁精選随筆集』(中公文庫 2022年) この二人は、森於菟が1890年生まれ、上林暁が1902年で、年も少し離れていますし、仕事の畑もまったく違って、何の関係もあ…

André Dhôtel『La nouvelle chronique fabuleuse』(アンドレ・ドーテル『新・架空噺』)

André Dhôtel『La nouvelle chronique fabuleuse』(Pierre Horay 1984年) 2年前読んだ『Les voyages fantastiques de JULIEN GRAINEBIS』(2022年1月15日記事参照)が面白かったので、手に取ってみました。期待どおり、不思議な冒険譚の数々が収められてい…

中西進『ひらがなでよめばわかる日本語』

中西進『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮文庫 2008年) 入院することがあり、ベッドで寝転がっても読める文庫本を持って行ったので、しばらく文庫本が続きます。日本の古語に疎いので、この本を読んでみたところ、新しく知り得たことが沢山ありました…

清水茂の二冊

清水茂『遠いひびき』(舷燈社 2015年) 清水茂『翳のなかの仄明り―詩についての断想』(青樹社 2004年) 先日読んだ『詩と呼ばれる希望』に続いて、清水茂を読んでみました。『遠いひびき』は、11章のそれぞれが独立したテーマをもった随想集、『翳のなかの…

J.-H.ROSNY AINÉ『LA FEMME DISPARUE』(J=H・ロニー兄『消えた女』)

J.-H.ROSNY AINÉ『LA FEMME DISPARUE』(COSMOPOLITES 1925年?) 幻想小説アンソロジーでよく掲載されているロニー兄の作品です。以前、『L’ÉNIGME DE GIVREUSE(ジヴリューズの謎)』という分身を扱った超自然的小説を読んだことがありますが(2022年11月5…

矢内原伊作『顔について』

矢内原伊作『顔について―矢内原伊作の本 1』(みすず書房 1986年) 前回読んだ清水茂『詩と呼ばれる希望』の解説で、担当編集者が、矢内原伊作と清水茂がともに雑誌「同時代」の同人であり、深い交友があったことについて触れていたこともあり、架蔵してい…

清水茂『詩と呼ばれる希望』

清水茂『詩と呼ばれる希望―ルヴェルディ、ボヌフォワ等をめぐって』(コールサック社 2014年) フランスを舞台にしたエッセーを読んでいたら、なぜか清水茂を読みたくなりました。この本は、清水茂のフランス滞在を題材にした初期エッセイとは違って、副題に…

EDMOND JALOUX『LA FIN D’UN BEAU JOUR』(エドモン・ジャルー『好日の終わり』)

EDMOND JALOUX『LA FIN D’UN BEAU JOUR』(ARTHÈME FAYARD 1930年) エドモン・ジャルーを読むのは初めて。廣瀬哲士の『新フランス文学』で、アンリ・ド・レニエの弟子筋と紹介されていたので、読んでみました。「LE LIVRE DE DEMAIN」という叢書の一冊で、…

フランスを舞台にしたエッセー二冊

赤瀬雅子『フランス随想―比較文化的エセー』(秀英書房 2007年) 西出真一郎『木苺の村―フランス文学迷子散歩』(作品社 2010年) フランスへ行くにも、まだロシアの上を飛べないので時間はかかるし、航空料金も高くなってるし、おまけに円安でホテル代も高…

翻訳に関する本二冊

芳賀徹編『翻訳と日本文化』(山川出版社 2000年) 鴻巣友季子『明治大正 翻訳ワンダーランド』(新潮新書 2005年) これまで読んできたのよりは、出版年の新しい本です。これまでとは違った新たな視点があるのが特徴。『翻訳と日本文化』では、書籍にとどま…

2023年 年末古本報告

年末恒例の阪神百貨店古書ノ市に、今年も忘年会を兼ねて古本仲間と集まりました。今回は珍しく300円均一の共同コーナーがあり、いい本もたくさん出ていて、けっこう楽しめました。 いつもどおり真っ先に寸心堂の棚を見ると、4日目にもかかわらず珍しい本が残…

吉武好孝『翻訳事始』

吉武好孝『翻訳事始』(早川書房 1995年) 前回読んだ『明治・大正の翻訳史』(初版は1959年)と同じ著者の本。ハヤカワ・ライブラリで1967年に出た初版の再版です。同じ時代の同じ現象を扱っている訳ですから、当然同じ記述がありますが、異なった角度から…

ALEXANDRE DUMAS『Sur Gérard de Nerval』(アレクサンドル・デュマ『ネルヴァルについて』)

ALEXANDRE DUMAS『Sur Gérard de Nerval―Nouveaux Mémoires(ジェラール・ド・ネルヴァルについて―新たな思い出)』(Complexe 1990年) デュマが書いたネルヴァルの思い出となれば、読まずにはおれません。この本が世に出ることとなったいきさつをクロード…

吉武好孝『明治・大正の翻訳史』

吉武好孝『明治・大正の翻訳史』(研究社 1972年) タイトルどおり、明治から大正にかけて外国の小説、評論、詩の翻訳がどう行なわれていったかを、時系列に追ったものですが、それにとどまらず、日本語の文章が翻訳が進むに連れてどう変わっていったか、ま…

野上豐一郎『翻譯論』

野上豐一郎『翻譯論―翻譯の理論と實際』(岩波書店 1938年) 翻訳史でもなく、翻訳作品の解説でもなく、翻訳という行為そのものについて、原理的に考究した本。英文学、能楽の研究者の立場から、具体例を引用しながら、論を展開しています。常識的な発想から…

島田謹二『翻譯文學』

島田謹二『翻譯文學』(至文堂 1951年) 「日本文學教養講座」というシリーズのうちの一冊。このシリーズでは、ほかに『神話傳説説話文學』というのを持っています。島田謹二の本はいろいろ持っていますが、読んだのは『ポーとボードレール』だけ。文章が論…

『近代文学鑑賞講座21 翻訳文学』

河盛好蔵編『近代文学鑑賞講座21 翻訳文学』(角川書店 1969年) これも翻訳文学についての概説書。後半に、代表的な翻訳論を抜粋のかたちで掲載しているのが特徴です。前半は、編者による序論と作品鑑賞となっており、作品鑑賞の部では、随筆、詩、小説、戯…

『翻訳の日本語』

川村二郎/池内紀『日本語の世界15 翻訳の日本語』(中央公論社 1981年) ひと頃、明治・大正期の海外翻訳ものが好きになって、森鴎外、黒岩涙香、森田思軒の翻訳翻案小説、上田敏、日夏耿之介、永井荷風らの訳詩集を読み、勢い余って、翻訳論に関する本もい…

現代詩に関する三冊

渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』(講談社現代新書 2013年) 大岡信+谷川俊太郎『エナジー対話 詩の誕生』(エッソ・スタンダード石油株式会社広報部 1975年) 大岡信×谷川俊太郎『対談 現代詩入門』(中公文庫 1989年) 分かりやすく面白そうだったの…

Hubert Haddad『La double conversion d’Al-Mostancir』(ユベール・アダッド『アル・モスタンシルの二重の改宗』)

Hubert Haddad『La double conversion d’Al-Mostancir』(fayard 2003年) ユベール・アダッドを読むのは、これで5冊目。最初に読んだ短篇「Le Secret de l’immortalité(不死の秘密)」があまりに衝撃的だったので、続けて読んできましたが、これまででは、…

百万遍知恩寺の秋の古本まつりほか

知恩寺秋の古本まつり、今年は初日は都合が悪く、3日目になりました。チャリティオークションが4年ぶりに開催されていて、久しぶりに懐かしい掛け声を聞きながら、古本を眺めました。 キクオ書店、竹岡書店の3冊500円均一棚は、3日目とあって荒らされ尽くし…

最近よく聞く曲、ヴォルフ=フェラーリ

音楽の話題から遠ざかって、もう1年以上が経つのに気がつきました。この間、ゲルンスハイムのFantasie Stuckやヴァイオリン・ソナタを聴いたりなどしましたが、現在、通販で買った「日本で流行った洋楽69~79」5枚組を車の中でかけたり、ヴォルフ=フェラー…

吉野秀雄『鹿鳴集歌解』

吉野秀雄『鹿鳴集歌解』(中公文庫 1981年) 体調がすぐれず、少し間が空いてしまいました。この歳になると、何かと故障が出てきますので、ブログ公開をお休みすることもこれから起こると思いますが、ご了承ください。今のところ、0と5のつく日に、アップす…

奈良の寺と仏像についての本二冊

竹山道雄『古都遍歴―奈良』(新潮社 1954年) 矢内原伊作『古寺思索の旅』(時事通信社 1983年) 前回に続いて、奈良の寺や仏像に関する本を読んでみました。書影(真ん中)には、『古都遍歴―奈良』の改版(1976年)も入れています。『古寺思索の旅』は、奈…

四天王寺秋の大古本祭りほか

日曜日、四天王寺の古本市で、古本仲間の恒例の集まりがありました。といっても3人だけとなりましたが。お昼まで何とか天気も持ちこたえ、雨の降り出した1時に集合して昼呑み会へと移行しました。 四天王寺の古本市は、初日は10時きっちりに開場していますが…