CLAUDE SEIGNOLLE『INVITATION AU CHÂTEAU DE L’ÉTRANGE』(クロード・セニョール『不思議の館への招待』)

f:id:ikoma-san-jin:20200605115246j:plain:w86 外観   f:id:ikoma-san-jin:20200605115302j:plain:w170中扉
CLAUDE SEIGNOLLE『INVITATION AU CHÂTEAU DE L’ÉTRANGE』(WALTER BECKERS 1974年)


 このブログにコメントを寄せていただいたJann Fastierさんから勧められた本。セニョールが知人らから聞いたり、自らが体験した超自然的な話を集めたものです。見出しだけでも100ほどあり、見出しのなかにも話がいくつか含まれているので、大雑把に200ぐらいの小話が収められていると思います。著名人では、ジャン・レイやジャン・ジオノ、ジョルジュ・デュアメル、ジャック・ベルジェ、セルジュ・ユタン、さらにブラッドベリまで。またご自分の作品にまつわる話もありました。

 セニョールはフランスの地方に伝わる伝説口碑を収集し、それを彫琢し小説仕立てにして語る幻想作家で、この本にはそうした土俗的なものもありましたが、全般的には都会的なモダン怪談が多く、宇宙人、空飛ぶ円盤、魔の三角地帯など黒沼健風のオカルト話もあり、はっきり言えば少し期待外れ。

 私の趣味から言えば、第Ⅴ章の「FASTUEUX SALONS AUX ÉTAMINES D’ARAIGNÉES.(La Vie secrète des Morts-Voyages dans le temps-Illuminations)(蜘蛛の織物でできた豪華なサロン―死者の隠された生、時間旅行、霊感)」が好み。とくに「LE VOYAGE EN CASTILLE(カスティーリャへの旅)」が秀逸。カスティーリャの富豪と文通をしていた友人があるとき富豪から招かれて、マドリード近郊の古びた館を訪れるが、そこには蝋燭の明りのもと、伝統衣装を身につけ、カスティーリャ訛の古いフランス語で古代の錬金術を語る人々がいた、というひとときの眩暈を描く香気ある短篇。

 第Ⅴ章ではほかにも、オートバイの青年が雨の中に立たずむ娘を見つけ家まで乗せて送っていくが、翌日上着を娘にかけてあげたまま返してもらうのを忘れていたので取りに行くと、その娘は数か月前に亡くなっており、お墓に行くと上着が落ちていたという「LA VESTE(上着)」、イギリスの無学の羊飼いが15歳にパリに出た途端に才能を発揮し、24か国語を操って詩集を次々に世に問うたが、事故で死んでしまった。その後忘れ去られていた詩人をドキュメントにしようとテレビ局が動いたが、知っている人の証言がまちまちなうえ、本人の写真もなく、原稿も紛失し、そのうち本当に存在していたかと疑い始めたというボルヘス風小話「UN CERTAIN MONSIEUR ROBIN(ロバンとか言う紳士)」など。

 また第Ⅵ章の「LA GALERIE AUX PORTRAITS DE FAMILLE.(Personnages insolites ou monstrueux)(家族の肖像の画廊―不気味な怪物のような人々)」の狂人・畸形人に関する話も衝撃的。セニョールが精神病院に招かれ超自然話をしに行くが、どれが患者か医者か警備員か分からず、話し出すと次々に狂人たちが騒ぎ出しキリストも現れるなど混迷を極める「DES FOUS ?(気ちがいか?)」や、四つ足で走るかのような狼少年が魚を手で掴む「LE FILS LOUP(狼の子)」、毛を剃られた猿をよく調べてみたら人間だったという残酷譚「Le singe(猿)」、早老症で骸骨のように痩せた少女が水頭症の頭を震わせていたが眼の光だけは清らかだったという聖性譚「LA PETITE REINE(女王のような女の子)」など。

 第Ⅶ章「LES COMMUNS CORNUS.(Magie et sorcellerie)(角の生えた村―魔術と妖術)」では、パンをこねて鼠の形にすると生きて動き出す魔法を語る「LES RATS DE MIE(パンの鼠)」、魔術師により妻の病気の身代わりとなった白樺を誤って切り倒したら妻の病気がすぐ再発して死んでしまうという「UNE SANTÉ DE BOULEAU(白樺の健康)」(以前読んだ「UNE SANTÉ DE CERISIER」-『Le Rond des Sorciers』所収-と同じ話だった)、インチキ祈祷師の魔術を破った途端に、すでに死んでいた美女が臭いにおいを放ちながら溶けていくという怪奇映画的結末の「LA BELLE COPTE(コプトの美女)」など。

 古本にまつわる話もいくつかありました。一生かかって集めた魔道書を売り払い、得た小切手を換金しに銀行へ行こうと、いつも立ち寄る古本市を横目に見ながら通り過ぎた途端こけて死んでしまうという悲惨な「LES GRIMOIRES VENDUS(売った魔道書)」、マルセル・ベアリュの甥が開いている古本屋へ、ジャック・ベルジェアメリカのパルプ雑誌を探しに行き、そんな珍しいものはないと言われて帰ろうとしたら、一人の少年がパルプ雑誌を抱えて売りに来たという夢のような「PETITE SUITE BERGIERESQUE(ベルジェ風の小話)」など。

 日本に関連した話が2カ所出てきました。ひとつはテュアルドというアフリカの架空の国から政府代表として日本に武器調達にやってきたと主張する狂人の話(「LE TUARED(テュアルド)」)。もうひとつは、背の高い鱗に覆われた金髪の宇宙人が日本語のような言葉を喋ったという話(「SUSANA RACONTE(スザナが語る)」)。

 クロード・セニョールはラジオなどに出ているうちに、みんなから魔術師のように思われて、あちこちから超自然的現象にまつわる相談が寄せられたようですが、ある話では、田舎の魔術師と対決させようと画策する人が出てきて、本人もその気になって魔術を施したりしているのがおかしい(「Comment j’ai fait revenir Jules(私はどうしてジュールを呼び寄せたか)」)。