:パガニーニまとめ聴き

 最近、大阪や京都への行き帰りの電車の中で、パガニーニをよく聴いています。とくに酔っ払って聞くと、音がずんずんと心の中に染み入って何とも言えません。

 前にも書いたかもしれませんが、学生の頃パガニーニは技巧的で内容が薄いと敬遠して、後期ロマン派の重厚な音楽ばかりを聴いていました。齢とともに単純な作りで聴きやすい音楽を好むようになり、パガニーニがしっくりくるようになりました。老齢で頭が粗雑になったせいでしょうか。

 いつ頃から聴くようになったか考えて見ると、20年ぐらい前に、ギル・シャハムの『Paganini for two』とギトリスの『ヴァイオリン協奏曲1番、2番』と出会ってからのように思います。この頃も会社の行き帰り歩きながらよく聴きました。今でもこれらの曲を聴くとその時の景色やその頃の仕事のことなどが浮かんできます。
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 それ以来、パガニーニの他のヴァイオリン協奏曲や、ヴァイオリンとギターのソナタ弦楽四重奏曲、珍しいところでは、ヴァイオリンとバスーンのための二重奏曲など、少しずつCDを増やしてきました。読物では、フランツ・ファルガの『小説パガニーニ』なる伝記を読んで、パガニーニの幼少時の努力が培った才能の凄さや、ナポレオンの妹たち、ロッシーニベルリオーズとの交流、リストをはじめ、ショパンシューマン、ヴュータン、シューベルトらがパガニーニの演奏に感激していたことに驚いたりしました。失われた楽曲もたくさんあるみたいでもったいない気がします。

 パガニーニの特徴を大ざっぱに言うと、緩徐楽章の胸がキュンとなるような美しく優しいメロディの曲想のものと、早いパッセージで、左手のピツィカートやフラジョレットなどの技法をふんだんに使った楽しめる曲の2種類があって、大体その組み合わせで一つの楽曲が成り立っていること(協奏曲やヴァイオリンソナタなどはだいたいこの感じ)。それとヴァイオリンと脇役の伴奏という具合にはっきりと別れていて、オーケストラパートやピアノやギターがヴァイオリンを押しのけて前面に出てくることはなく、譜面も伴奏に徹した単純な作りになっていること、です。

 ということは、ヴァイオリニストすなわち自分があくまでも主役で、歌舞伎役者のように大見得を切る構造になっているわけです。協奏曲のなかには、なかなかその主役のヴァイオリンが登場せず、オーケストラだけの演奏が延々と続く曲もありますが(第5番、第3番の1楽章)、それもヴァイオリンを引き立たせるためだけ、まだかまだかとじらすだけの役割をしているにすぎません。

 ジャンル別で言えば、パガニーニらしいのは、やはり協奏曲と、それに無伴奏でしょうか。ヴァイオリンとギターのソナタは典雅で聴きやすくひと頃よく聴きました。ヴァイオリンとバスーンの二重奏曲はバスーンが主旋律を取る場面もあり面白いですが、音色がはじめは珍しいけど、次第に単調な印象になってしまうところが残念。弦楽四重奏曲は全般的に落ち着いて穏かですが、パガニーニらしくなく別人のようです。もっとはめをはずしてもらいたい。ギターの入った四重奏曲、五重奏曲は残念ながらまだ聴いてません。
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 私の好みは、どちらかというとやはり、少し哀しみを帯びどこか典雅な響きのある緩徐曲のほうに惹かれます。これまで聴いたパガニーニの曲のなかで、印象に残っている楽曲、楽章をピックアップしてみます。
ベスト◎は、
ヴァイオリン協奏曲は何と言っても第1番、とくに第1楽章と第3楽章、第2番第2楽章、第6番第2楽章。
番号のないヴァイオリン協奏曲では、「春のソナタPrimavera sonata」、「マエストーサ・ソナタ・センティメンターレMaestosa sonata sentimentale」、「ナポレオン・ソナタNapoléon sonata」、「ロッシーニタンクレディ』のアリア『こんなに胸さわぎが』による序奏と変奏曲I palpiti」。
ヴァイオリンソナタでは、「カンタービレニ長調」、「ヴァイオリンとギターのための6つのソナタSei sonata」1番4番6番の緩徐楽章、「チェントーネ・ディ・ソナタCentone di sonata」Aの2番4番、Bの4番、5番。
室内楽では、弦楽四重奏第2番のアダージョAdagio, con trasporto(ずっとこの曲のなかに浸っていたいと思うほど)。
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 準ベスト(こんな言い方あるのかな?)○は、
ヴァイオリン協奏曲では、第1番第2楽章、第2番の第1楽章と第3楽章、第4番第1楽章、第5番2楽章、第6番第1楽章。
番号なしの協奏曲では、「パイジェロの『水車小屋の娘』の『わが心もはやうつろになりて』による変奏曲Nel cor più non mi sento」。
それに無伴奏「24の奇想曲」のいちばんよく演奏される24番目。

 演奏家についてはここで皆さんに披露できるほど、いろんなヴァイオリニストを聴いているわけではありませんが、やはりギトリス、ギル・シャハム、それにアッカルドでしょうか。このあいだ新地のクラシックバーCで聴いた諏訪内晶子の協奏曲第一番(だったと思うが二番だったか)もとても素晴らしかった。