何かの気配を感じさせる音楽 その④

 「何かの気配を感じさせる音楽」は、しばらく間が空いてしまいましたが、フランス篇を書こうとして、持っていなかったCDなどを買って聞いたりしている間に時間が過ぎてしまいました。まだほかにも聞けてない曲もありますが、切りがないので。また新しい発見があればその都度補足していきたいと思います。作品がかなり多くなりましたので、2回に分けることにし、また音源は必要最小限に留めました。

 気配を感じさせる音楽が描写的な音楽に多いと経験的に言えると思いますが、フランスにおいては、ロマン派における標題音楽の先鞭をつけたベルリオーズ(1803年生まれ)に気配を感じさせる音楽の淵源がかなりあるような気がします。
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ベルリオーズ幻想交響曲』(EMI TOCE-3036)
シャルル・ミュンシュ指揮、パリ管弦楽団
 学生の頃発売直後レコードで聞いた懐かしい演奏です。第2楽章の冒頭から0:35秒ぐらいまでと(https://www.youtube.com/watch?v=Sz6GRn0lIcA)、第5楽章の冒頭から1:20秒ぐらいまでの低弦のうねり、地響きに顕著な気配が感じられます(https://www.youtube.com/watch?v=xfuv40rwa3o)。第1楽章の冒頭や、第3楽章の12:50ぐらいからの何か予兆を感じさせる遠雷のようなティンパニの低い音とコール・アングレとの掛け合いの部分、第4楽章の有名な「断頭台への行進」にも何かが起こりそうな切迫した雰囲気があります。


 時代を追って見て行きますと、次はヴュータン(1820年生まれ)になるでしょうか。
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Henri Vieuxtemps『Concerto pour violon et orchestra n°3』(FUG575)
Nikita Boriso-Glebsky(Vn)、Patrick Davin(Cond)、Royal de Liège
 ヴァイオリン協奏曲第3番の第1楽章には、10分30秒あたりからヴァイオリンソロに移るまでのあいだに気配のある響きが聞かれます(https://www.youtube.com/watch?v=FfaNSq_PnQ8)。これは協奏曲の場合少なからず見られる(聞かれる)現象です。独奏が登場するまでの期待感を醸成するという役割があるわけです。
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ヴュータン『ヴァイオリン協奏曲第4番』(PHILIPS PHCP-9635)
アルテュールグリュミオー(Vn)、マニュエル・ロザンタール指揮、コンセール・ラムルー管弦楽団
 という訳で、この曲も第1楽章冒頭からヴァイオリン独奏が出てくる4分15秒ぐらいまで全体にどこかしら気配が感じられますが、とくに35秒あたりから1分45秒頃までのうねるような弦とティンパニーの響き(https://www.youtube.com/watch?v=URc123-rDiE)と3分5秒ぐらいから始まる弦の旋回音に濃厚な感じがあります。


 次の作曲家のフランク(1822年生まれ)は、ヴァイオリン・ソナタが有名で、全般的に不安な曲想ですが、思い当たるところがないので、管弦楽曲を聴いてみました。
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FRANCK『Rédemption/Nocturne/Le Chasseur Maudit/Psyché/Les Éolides』(DG 476 2800)
Orchstre de Paris、Daniel Barenboim
 一曲目「Rédemption(贖罪)」は後期ロマン派的な重厚で静謐な弦楽で始まりますが、次第に高鳴り、6分少し前からファンファーレが鳴り響き、6分30秒ぐらいから煽り立てるような弦の旋回音が出てきます。ワーグナーの影響が濃厚に感じられました。がやはり、気配の音楽となると、3曲目の「Le Chasseur Maudit(呪われた狩人)」になるでしょうか。「Molto lento」では冒頭から大海に揺られているようなうねりのあるメロディーが奏でられ、いったん収まったかと思うとまた盛り上がりを繰り返し(https://www.youtube.com/watch?v=DuqiSBYSXJc)、次の「Più animato」の冒頭部まで続きます。5曲目の「Psyché(プシケ)」の第4楽章も「Rédemption」に似た静かで雰囲気のある名曲です。


 サン=サーンス(1835年生まれ)も交響詩を作曲しているので、いろいろありそうかと、引っ張り出して聴いてみましたが、残念ながら期待したほどではありませんでした。ひょっとして、私の知らないオペラにもっとあるのかもしれません。
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カミーユ・サン=サーンス交響曲第3番』(JUPITER-3 DCI 81036)
シャルル・デュトワ指揮、モントリオール交響楽団
 第1楽章に若干ありました。きわめて静かに始まり、無音の瞬間もあるなど緊張感が持続するなかで、1分過ぎたあたりからしばらく、風雲急を告げる、何か起こりそうに思わせる雰囲気があります(https://www.youtube.com/watch?v=BuWTZtMyqso)。美しいメロディが始まる前の16分ごろから16分50秒あたりにまた緊迫した不気味な雰囲気がありました。

 交響詩では、「英雄的行進曲」の4分20秒ぐらいから不気味な雰囲気がありました。ヴァイオリン協奏曲では、第2番の第2楽章の開始から50秒ぐらいまでと、第3番の第1楽章の冒頭のティンパニーに雰囲気が感じられ、また同第3楽章の華麗なメロディを盛り上げるための導入部としての楽想(6分~7分過ぎ)に多少感じられるといったところ。


 ゴダール(1849年生まれ)は、ひと頃ヴァイオリン協奏曲をよく聴きましたが、思い当たる個所がありません。管弦楽曲に少しそうした部分を見つけました。
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Benjamin Godard『Piano Concerto No.1/Symphonie Orientale pour orchestreほか』(CDLX 7274)
Benjamin Godard『Piano Concerto No.2/Ourverture des Guelfesほか』(CDLX 7274)
Victor Sangiorgio(Pf)、Martin Yates(Cond)、ROYAL SCOTTISH NATIONAL ORCHESTRA
 1枚目に入っている東洋風交響曲(Symphonie Orientale pour orchestre)の1曲目「Arabia」に、冒頭から何かが歩いてくる感じ。標題には「象」と書いてあります。だんだんクレッシェンドして行って、2分40秒ぐらいでいったん収まるが、また3分30秒ぐらいから繰り返されます(https://www.youtube.com/watch?v=tRYcfKOU7IQ)。2枚目のCDの1曲目の「ゲルフ党」序曲(Ourverture des Guelfes)はオペラの序曲だけあって、気配が濃厚。始まって3分20秒あたりからしばらくうねるようなメロディが繰り返され、ファンファーレが鳴り響きます。もっとも感じられたのは、5分40秒から、不気味な低音とゆったりしたテンポで先ほどのメロディが反復されます(https://www.youtube.com/watch?v=xlIRRcag3z8)。

 東洋風交響曲では、ほかに3曲目「Greece」と4曲目「Persia」は全体が優雅で夢見るような雰囲気で、神秘感が漂っていました。ピアノ協奏曲では、第1番第一楽章の冒頭から1分10秒ぐらいまでのピアノが入る前の部分と、第2番第一楽章の冒頭から50秒ぐらいにかけてのピアノの繰り返し音に何か気配が感じられます。2枚目CD3曲目の「Fantasie Persane」の後半の「Allegretto moderato」では、冒頭からファゴットと低弦?の小刻みなリズムとピアノの上昇音と下降音の繰り返しがあり、そのリズムに乗って何かがやってくる感じがします。


 もう一人ショーソン1855年生まれ)を取りあげます。「詩曲」は有名ですが、「協奏曲」も全体に静謐で淡く繊細な境地を感じさせる名曲です。
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CHAUSSON『Concert pour violon, piano & quator à cordes』(HMA 1951135)
gis Pasquier(Vn)、Jean-Claude Pennetier(Pf)
 「協奏曲」の第3楽章は「Grave」と指定され、冒頭からピアノの6音の基調が延々と繰り返され、途中不気味な旋律がでてきたりしながら、7分25秒ぐらいから盛り上がって行きます(https://www.youtube.com/watch?v=xKd4o3bWTro)。少しカプレに似たところもあります。
 ショーソンは、フランクの弟子ということで、交響曲交響詩にも何かありそうなので、いまCDを発注しているところです。