ドン・ジョヴァンニとゲルンスハイムのヴァイオリン協奏曲

 しばらくぶりで音楽の話題。今年の後半は、モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」とゲルンスハイムのヴァイオリン協奏曲にはまっておりました。ドン・ジョヴァンニは8月末に予定していたドイツ旅行で、ベルリンでドイッチュ・オーパーの公演を見ることにしていたので、それがきっかけです。勘所が分かっていると、長大なオペラ公演も楽しめるのではないかと、CDを何回か聴き、ときにはイタリア語・日本語の対訳の台本(音楽之友社、オペラ対訳ライブラリー)で意味をたどりました。すると不思議なもので、何度か聴いているうちに、いくつかのアリアや重唱がつぎつぎと頭にこびりついてきたので、今度はそれを抜粋して(全79曲中21曲)1枚のCDを作成し、それをまた何度も聴きました。

f:id:ikoma-san-jin:20191115163320j:plain

 CDは話題のテオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナによるもので、冒頭の序曲から強弱のメリハリが著しく、第5景のエルヴィーラのアリアでも弦のリズムの刻み方が打楽器的なくらい明瞭、第13景のドンナ・アンナのアリアの叫ぶような歌い方、第15景のドン・ジョヴァンニの早口言葉のようなアリアなど、目覚ましい印象があり、第1幕の最後や第2幕の石像が登場する場面など、もの凄い迫力で劇的な盛り上がりを見せています。また緩やかな部分では、第1幕14景のドン・オッターヴィオのアリア、第2幕第3景のドン・ジョヴァンニのカンツォネッタ、ともにセレナード風の甘美な恋歌でとても気に入りました。

 

 ベルリンでの公演は、若手を中心とした新演出とやらで、値段も日本円換算で一人3000円という格安の設定となっておりました。20年ぐらい前に、この劇場で「トロヴァトーレ」を見たとき、ヒットラーの映像が背景に映し出されて唖然としたことがありますが、案の定、冒頭、背広姿の男たちがゴルフクラブを持って登場するなど、度肝を抜かれました。しかし、ドン・ジョヴァンニ、レポレッロの二人の熱演がとても好感が持て、第一幕の最後では、サーカスのような場面もあり楽しめました。帰ってからもCDを聴くたびに、劇場の光景がよみがえってきて感激を新たにしました。ドイッチュ・オーパーの外観と休憩中の飲食コーナーの様子の写真をアップしておきます。

f:id:ikoma-san-jin:20191115163420j:plain  f:id:ikoma-san-jin:20191115163458j:plain

 

 ゲルンスハイムは1839年生まれのドイツの作曲家。いつも参照している三省堂の『クラシック音楽作品名辞典』(2001年)に名前も載っていないところを見ると、最近評価の出てきた作曲家でしょうか。ひとことで言えば、ビーダーマイヤーの雰囲気を持った音楽で、こじんまりと美しく愛玩したくなるような楽曲です。この時代の他の曲、例えば、ワーグナーブルックナーマーラーなど後期ロマン派音楽に見られるデモーニッシュな情念や、重苦しい雰囲気、執拗さはなく、軽やかですが、かと言って、フランス音楽の華麗さ、洒落たセンス、悪く言えば気障な曲想ともまた違います。フランス音楽と比べてしまうと、どうしても田舎者の感じはぬぐえませんが、明るく牧歌的なところがあります。誠実で、目立とうとすることなく穏やかな雰囲気は、メンデルスゾーンブルッフに近いかもしれません。

f:id:ikoma-san-jin:20191115163555j:plain

 CDの解説を読むと、実際に13歳の頃に、ライプツィッヒでメンデルスゾーンの弟子に教育を受けているようです。ついでに書くと、ゲルンスハイムはいろんな作曲家と知り合っていて、リスト、アントン・ルビンシュタイン、ロッシーニワーグナーブラームス、フンパーディング、サラサーテなど。他にも会ったとは明確に書いていませんが、ベルリンで音楽監督に就任する際、ゲルンスハイムを後任に推挙したのがブルッフで、ヨアヒム、ビューローも推挙に加わったということです。またマーラーとも手紙でやり取りしたりと書いてありました。この時代のヨーロッパの音楽家同士がいかに交流が盛んだったかということが分かります。

 

 このCDにはヴァイオリン協奏曲の第1番、第2番と、幻想小曲が収められています。幻想小曲は単楽章のヴァイオリン協奏曲と言えるもので、第1番より前に書かれています。私の好きな曲は、第1番の第1楽章、第2楽章と、幻想小曲です。第1番第1楽章の冒頭は、金管木管群がティンパニーの音に導かれるように牧歌的な旋律を奏ではじめ、次第に弦楽も加わってクレッシェンドしていく雰囲気が、高いところから広大な風景を眺望しているかのような気にさせられます。第2楽章はゆったりとして悲しみと寂しさの溢れる美しい曲。幻想小曲は緩徐楽章を取りだしてきたようで1番の2楽章と似た寂しい曲です。独奏ヴァイオリンの繰り返すパッセージが何とも言えません。行ったことはありませんが、何か北欧の暗く寂しい風景が広がってくるような曲です。美しい旋律が部分的に際立つというよりも連綿と続いて、曲が鳴り止まないでほしいと思うほど、その中に浸ると気持ち良さが広がります。ゲルンスハイムのほかの曲も聴きたいと思い、チェロ協奏曲とチェロ・ソナタピアノ五重奏曲を注文しました。