栗田勇『フランス近代詩入門―附 フランス詩法概要』


栗田勇『フランス近代詩入門―附 フランス詩法概要』(錬金社 1958年)


 前半にフランス近代詩の原文テキスト、後半にフランス詩法の概要説明を配した本。後半部分だけを読みました。かなり昔に、鈴木信太郎の『フランス詩法』上・下を読んでいますが(2011年2月26日記事参照)、本を一回読んだぐらいでは頭に入るものではありません。記憶に残っていないので、もう一度基本だけでも身につけようと、復習の意味で読んでみました。

 この本を買ったのは、後半生を日本文化研究者として過ごした栗田勇が、仏文学者として若き日に書いた珍しい本だったからです。一見して、学生向けの教材に見えますが、おそらく自らも詩法を学び直そうと、フランス詩法に関する原書を参照しながら、かみくだいて書いたもののようです。栗田のオリジナルな詩論は展開されておりませんでした(と思う)。


 この本を読んで、その内容に加えて、私なりにいくつか詩の基本原理のようなものを感じたので、まずそれを記しておきます。
①詩をつまらなくするものは、同様の趣向が連続することで先が見えてしまう技巧のマンネリ化である。逆に詩を魅力的にするものは、変化と驚き、先の見えない謎である。しかし変化・驚きが成立するためには、その前提として一定の常態(つまり連続)が必要である。すなわち、その変化・驚き・謎と、連続・反復とのあいだに、微妙な均衡が成り立った場合に、詩的感動が生まれるのではないか。これは文芸のみならず芸術全般にも通じるものではないか。

②詩の形は人間の生理的な条件に基づいていること。
ア)詩の長さは、人間の息の長さと関係しており、とりとめのない連続した言葉からは詩は生まれない。ある一定の短い句が分かたれながら、連続して行くところに、リズムが生まれる。

イ)耳ではっきり聞き分けられるには、アクセント(英独の場合)や、音節の長短(仏日中)が必要で、ここにリズムが生じ、そのリズムは時間におけるシンメトリを形作る。

ウ)一行の詩句の始めと終わりが聞き分けられなければリズムに混乱が生じるので、そのために各詩句の末尾に統一を与える必要がある。それが同音を反復させる脚韻である。

エ)詩の根本には音があり、耳を不快に感じさせないよう、鼻音や喉音の音を組み合わせて作るのが詩である。詩の規則はどうあれ耳障りな音を避けるというのが前提にある。

③音楽との比較でいえば、むかし音楽の三要素として、リズム、メロディ、ハーモニーと教えられたような気がするが、メロディには既にリズムの要素が入っているので、正しくは、音の高低と言うべきだろう。さらに別に音色という要素もあり、音楽の四要素としたほうがいい。これを詩に置き換えてみると、リズムは音節の長短、音の高低はアクセント、音色は種々の母音と子音、ハーモニーは少し違うような気もするが、韻だろうか。


 この本に戻ると、詩全般については、次のような記述がありました。
①詩法とは書くための技法を教えるだけのものではなく、詩を読むときの鑑賞のツボを教えるものでもある。

②詩文は大きく4つに分けられる。正規詩、自由詩、律動的散文、散文。


 フランス詩法の特徴に触れると思われる部分は次のようなものです。
①音節の数について:
ア)詩句の内部にシンメトリをもたらすためには、音節の数は偶数が望ましく、もっとも優れたものは12音節である。

イ)フランスの詩はもともと8音節であり、抒情詩に適していたが、あまりにも息が短く、変化に富む組合せにならないので、叙事詩や劇詩には向いていなかった。

ウ)10音節の詩句では、5音節+5音節は味がなく濫用ができない。そこで前半が短く、後半が長い形が採用されたが、次第に12音節に席を譲って行った。

エ)詩句が短くなればなるほど、軽快で動きが速くなってくる。

オ)例えば、fuyaient(逃げた)の語尾のentは発音されることは決してないので、音節として数えられない。音節の数は、結局発音されるかどうかで決まってくる。

②詩節について:
ア)詩節と詩句の関係は、詩句と音節の関係に似ている。詩句の中で音節数が限られているのと同様、詩節の中でも詩句の行は限られている。例えば、アレクサンドラン(12音節)で構成されている詩節は、6~7行までの詩句を含むことしかできないが、もっと音節数の少ない詩句からなる詩節の場合は、12行まで詩句を含むことができる。

イ)5~6音節以上の詩句では、句切りが役割を果たすように、詩句が5~6行以上になると、限定されたいくつかのグループになって、句切りとでもいうべき読点によって、分かたれるようになる。

ウ)五行詩以上の行数になると、七行詩、九行詩、十一行詩などの奇数行詩は稀である。四行詩、六行詩、八行詩、十行詩、十二行詩に見るべきものが多い。一般に脚韻の数としては5つ、行の数としては12を超えることはできないように思われる。


 と、偉そうに分かったようなことを書いていますが、押韻の部分がいちばん難しく、母音押韻(assoner)とか、半諧音(assonance)、模倣音の諧調(harmonie imitative)、開かれた音(sons ouverts)、閉じられた音(sons fermés)、支持の子音(consonne d’appui)など、複雑でまだよく分かってない言葉も多いのがほんとのところ。実際の詩にもっと当たって、鑑賞の力を養っていきたいと考えています。