:ヴュータン「ヴァイオリン協奏曲第4番 二短調 作品31」


アンリ・ヴュータン「ヴァイオリン協奏曲 第4番 二短調 作品31」「ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ短調 作品37」(PHILIPS
ヴァイオリン:アルチュール・グリュミオー
コンセール・ラムール管弦楽団
指揮:マニュエル・ロザンタール


 このところ、このCDをよく聞いています。とりわけ標記の「ヴァイオリン協奏曲第4番」を中心に。

 何と言っても二楽章Adagio religiosoがとても完成されたものになっています。冒頭の金管のコラールの荘重な響き、独奏ヴァイオリンの奏でる胸がキュンとなるようなメロディ、その背後でズンズンと響く低弦のピチカートがたまりません。2回目にこの旋律が登場する時はハープが背景で奏でられます。ヴァイオリン協奏曲でハープが登場するのはこの曲が最初だそうです。

 一楽章もそれに次いで魅力的で、ヴァイオリン協奏曲なのに、冒頭は意表をつく木管の響きがリードし、弦がゆらぐような低い音を繰り返しますが、なかなか独奏ヴァイオリンが登場しません。

 この揺らぐ響きは、ロマン派らしい不安定な情調を掻き立てられるところが気に入っています。一時のロシア音楽が得意とした技法で、うろ覚えで間違っているかもしれませんが、リムスキー・コルサコフ(サルタン皇帝の物語やサトコ)、ムソルグスキー(禿山の一夜)、バラキレフ(タマール)や、ラヴェル(スペイン狂詩曲「夜への前奏曲」)、ストラヴィンスキー火の鳥)などでも効果的に使われています。この技法を使用したかなり初期の部類ではないでしょうか。

 一楽章では、カデンツァの前のあたりが独奏ヴァイオリンを中心に盛り上がりを見せて良い感じです。低弦の唸りもよい。

 四楽章では、冒頭が一楽章とそっくりなので、CDが壊れたかと思いました。


 パガニーニなどに比べると、オーケストレーションが複雑で、響きがとても新しく色彩的で、サン=サーンスを思わせる感じのところもあります。ヴュータンにはヴァイオリン協奏曲が全部で7曲あり、他にもヴィオラ作品などがあるようで、いずれもまだ聴いたことがないので、これからひとつずつ聴いていけるのが楽しみです。


 独奏のグリュミオーは、やや線が細いところがありますが、的確な音の刻み方と柔らかな響きが快く、素晴らしい演奏だと思います。