何かの気配を感じさせる音楽 その⑤

 フランス篇の第2弾。今回も分量が多くなりそうなので、核心部分だけで他は端折ります。まず前回の続き。ショーソン管弦楽作品のCDが届きました。
ショーソン交響曲/交響詩「祭りの夕べ」/交響詩「ヴィヴィアンヌ」』(ERATO WPCS-28027)
ミシェル・プラッソン指揮、トゥールーズ・カピトール管弦楽団
 もやもやと胎動する感じの夢幻的な雰囲気の楽想が多く、交響曲の第1楽章、第2楽章、交響詩「ヴィヴィアンヌ」、交響詩「祭りの夕べ」の冒頭部分はよく似ていて、どの部分にも気配があると言えばあるようにも思います。ここでは、交響曲の第1楽章をその代表として挙げておきます(https://www.youtube.com/watch?v=7wC9fu998BQ)。


 ドビュッシー1862年生まれ)は、フランス音楽のなかで、ラヴェルと並んで、気配を感じさせる音楽の筆頭ではないでしょうか。同時代の文学界では、ちょうど象徴主義が全盛のころで、その影響が多大に表れていると思います。まずドビュッシーの代表的な管弦楽作品が収録されている次のCD。
DEBUSSY『Pelléas et Mélisande-Suite/Prélude à l’après-midi d’un faune/3Nocturnes』(471 332-2 GH)
Claudio Abbado(Cond)、Berliner Philharmoniker
 1曲目の「牧神の午後への前奏曲」は、全篇夢幻的雰囲気に包まれています。冒頭からしばらく、まどろみから徐々に世界が開かれて行くというところに濃厚に気配があります(https://www.youtube.com/watch?v=EELy3fQTDYE)。雰囲気を醸し出すのに、ハープとフルートの組み合わせが効果的。ピッコロやクラリネットによる小鳥の囀り風も。何度か同じパターンを繰り返しながら展開していき、途中若干盛り上がる部分もありますが、気配はあれど最後まで実体は現れず終るといったところでしょうか。

 次の「三つの夜想曲」は3曲とも気配があります。1曲目の「雲」は同形音の反復のうちに始まり、2分半ばあたりから、「春の祭典」のような雰囲気も出てきて、まさに雲をつかむような音楽(https://www.youtube.com/watch?v=DrJmvVFp408)。2曲目の「祭り」も、2分50秒ぐらいから、何かが近づいてくる高まりがあります。3曲目の「シレーヌ」は、女声合唱が入って「ダフニスとクロエ」を思わせ、途中、揺りかごでゆすられているような揺らぎも感じられ、胎内回帰の幻想といった感じです。

 最後の「ペレアスとメリザンド組曲」では、3幕の「城の地下」の冒頭がもっとも不気味。ティンパニが先導して、木管系が同じ波形の旋律を繰り返します(https://www.youtube.com/watch?v=uwO1F_ltUks)。2幕の「庭の泉」も1分ごろから気配が現われ次第に低弦とティンパニで高まって行きます(https://www.youtube.com/watch?v=bXtOBfFkezw)。

 代表作と目される「海」は気配の雰囲気に満ち満ちている傑作です。
Debussy『La Mer』(TESTAMENT SBT・1438)
Carlo Maria Giulini(Cond)、Berliner Philharmoniker
 1曲目の「海の夜明けから真昼まで」では、冒頭無音の静けさのなかから、ハープの響きが胎動を予言すると、4音の弦の下降音が現われ繰り返され、散発的に木管が鳴ったりするなど、何かが形作られつつあるという気配が立ちこめ、やがて東洋的音階が出現します。これは波でしょうか(https://www.youtube.com/watch?v=NvkO7jWPlPM)。3曲目の「風と海との対話」でも、冒頭から弦が激しく動き、何かが蠢いている気配があります(https://www.youtube.com/watch?v=dhIl-mGl1KQ)。

 ドビュッシー室内楽でも名曲がたくさんありますが、なかでは描写的な色彩のある「6つの古代碑銘」(パイヤール編曲)に該当する部分がたくさん聞かれます。
室内楽名曲集』(ERATO WPCS-4627/8)
ジャン=フランソワ・パイヤール指揮、パイヤール室内管弦楽団
 2曲目の「名なき墓のために」は全篇お化けが出そうな雰囲気で、どこを抜粋してよいか分からないぐらいです。揺らぎのある音と不安定な旋律、とくにヴァイオリンの伸びるような音とトレモロが特徴的です(https://www.youtube.com/watch?v=kiaeh6TRBNU)。5曲目の「エジプト女のため」も揺らぎのある背景音の上にヴァイオリンが不安定な旋律を奏でます。聴く人を恐がらせようとしているみたい(https://www.youtube.com/watch?v=drlrX8gtWlw)。6曲目の「朝の雨に感謝のため」も冒頭から神経を逆なでするようなせわしないリズム、旋回するような旋律が不安を煽ります(https://www.youtube.com/watch?v=j4_z1Hcbbvc)。東洋的な印象もあります。

 ドビュッシーピアノ曲をひと頃たくさん聞きましたが、「前奏曲集」の7曲目「西風の見たもの」に若干雰囲気があったように思います。ほかにドビュッシーがポーの「アッシャー家の崩壊」と「鐘楼の悪魔」を歌劇にすべく自ら台本を用意した作品があって、曲はスケッチが残ってるだけのものを別の人が完成させたCDを買いましたが、期待が大きすぎたせいか、だらだらとした感じで、ピンときませんでした。


 デュカス(1865年生まれ)にもあります。
DUKAS『DER ZAUBER LEHRLING』(ERATO 5054197080197)
ARMIN JORDAN(Cond)、NOUVEL ORCHESTRE PHILHARMONIQUE DE RADIO-FRANCE
 ディズニー映画で有名な「魔法使いの弟子」では、冒頭もやもやとした感じが1分ほど続いたのち、合図のようなフレーズが間を置いて2回ほど入った後、何かが道をやってきます(https://www.youtube.com/watch?v=ikq5uJIBMIo)。次の収録曲、バレエ音楽「ラ・ペリ」の2曲目は、全体的に神秘的な雰囲気で少し東洋的なムードが感じられるところもありますが、とくに、冒頭部分などはお化けが飛び回っている印象(https://www.youtube.com/watch?v=2ENa-IuRWsQ)。次の交響曲では第2楽章のアンダンテが美しく、夢幻的な気分に浸され、冒頭からもやもやとした感じが延々と続きます。


 アルベール・ルーセル(1869年生まれ)も、デュカスやショーソンと似たところがあります。奇想に満ちている点ではプロコフィエフを思わせるところもあります。
roussel『Le Festin de l’araignéeほか』(ERATO 3984-24240-2)
Jean Martinon(Cond)、Orchestre National de l’O.R.T.F.、Charles Dutoit Jean Martinon(Cond)、Orchestre de Paris
 「Le Festin de l’araignée(蜘蛛の饗宴)」は、蜘蛛が昆虫を食べるのがテーマと聞いただけで変てこりんなバレエ音楽ですが、第1部のおそらく「黄金虫の登場」のところのユーモラスな曲想や(https://www.youtube.com/watch?v=wL1g3vSUUgg)、第2部の恐らく「蜉蝣の死」か「蜘蛛の苦悶」の奇想に満ちた部分が特筆すべきところ(https://www.youtube.com/watch?v=sEEvc6p9XCI)。次の「Bachus et Ariane(バッコスとアリアドネ)」は、多彩な表現を駆使した劇的な作品で、第1幕は全体的に差し迫った雰囲気がありますが、とくに9分あたりからの高揚感が印象的(https://www.youtube.com/watch?v=_nGPbPxaCo0)。


 ラヴェル(1875年生まれ)も気配を感じさせる傑出した作曲家と言えましょう。とくに下記のCDは秀逸。
ラヴェルボレロ/ラ・ヴァルス/スペイン狂詩曲/ダフニスとクロエ第2組曲ほか」(GRN-528)
アンドレ・クリュイタンス指揮、パリ音楽院管弦楽団
 「ラ・ヴァルス」は全体がリズムの奔流に包まれるすばらしい曲ですが、冒頭もやもやした雰囲気から次第に気配が結実してワルツの形をとってくるところが素敵です(https://www.youtube.com/watch?v=wSK-YjjkauA)。次の「スペイン狂詩曲」の1曲目「夜への前奏曲」は、冒頭から下降する4音の音形の繰り返しが不安な情緒を掻き立てます。昔のアメリカテレビドラマ「世にも不思議な物語」か「アウターリミッツ」で聞いたことのあるような音階です(https://www.youtube.com/watch?v=6rxfJ-06AnE)。この4音のフレーズは「スペイン狂詩曲」の他の曲にもどこかに顔を出します。「ダフニスとクロエ第2組曲」は全体的に雰囲気のある曲で、1曲目の「夜明け」は冒頭、ドビュッシーの「海」を思わせるようなところがあり、うねる低弦に木管が煌めきながら展開して行きます(https://www.youtube.com/watch?v=ObK7_ogf1ws)。2曲目「無言劇」も、冒頭4音のフレーズが繰り返され、ハープや木管のフレーズが交じり合いながら、もやもやとした霞んだような雰囲気が延々と続きます(https://www.youtube.com/watch?v=nicP4wMgsKg)。

 「左手のためのピアノ協奏曲」は協奏曲と銘打ちながら、「左手のための」というのも変わってますが、標題音楽交響詩的描写的な雰囲気があり、ジャズ風の洒落た楽想も現れる内容の点でも妙ちきりんな曲です。
RAVEL『Piano Concertosほか』(EMI 7243 5 66957 2 6)
Samson François(Pf)、André Cluytens(Cond)、Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire
 冒頭から協奏曲らしからぬ不気味な暗雲立ちこめる雰囲気でしばらくもやもやとしたまま次第に盛り上がり、ピアノ独奏が入るまで続きます(https://www.youtube.com/watch?v=jPcd9bh1AA8)。10分過ぎから背景に現れ2拍子のリズムが歩みを刻むような部分にも気配が感じられました。

 他の曲はCD名を上げませんが、バレエ音楽マ・メール・ロワ」では、「前奏曲」の初めの方の弦のトレモロや2曲目の「紡ぎ車の踊りと情景」の冒頭、「フィナーレ」の最終部にも気配が感じられました。「子供と魔法」の3曲目「やっ!僕のきれいな中国のお茶椀だ!」の2分40秒あたりにも雰囲気がありました。夢幻劇序曲「シェラザード」はオリエンタリスムの曲想のある曲ですが、気配の点ではそれほどでもありません。


 アンドレ・カプレ(1878年生まれ)も気配の音楽を語るうえで、決して忘れてはいけない作曲家です。
『幻想的な物語ほか』(HMA 1951417)
アンサンブル・ミュジク・オブリク、ローランス・カベル(ハープ)
 「幻想的な物語」は、ポーの「赤死病の仮面」を題材にしたハープ四重奏曲で、全篇夢幻的で、現代音楽に直結する感性が感じられます。とくに冒頭部分はグロテスクで神秘的、不気味さが感じられ、幻想音楽の筆頭に挙げられるべき作品となっています(https://www.youtube.com/watch?v=belis9noJJE)。