:アウトロウ伝2冊

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平野威馬雄『アウトロウ半歴史』(話の特集 昭和53年)
玉川信明『エコール・ド・パリの日本人野郎―日本アウトロー列傳2』(社会評論社 2005年)

 アウトロウというタイトルのついた本を2冊読みました。現在のこせついた世相を吹き飛ばすような豪快さにしびれました。戦前日本男性の骨太で奔放な生き方がうらやましい。


 『アウトロウ半歴史』は平野威馬雄の自叙伝。以前、『陰者の告白』を読んでその破天荒な体験にびっくりたまげたことがあったので、読んでみました。

 上流階級に関連した出自(皇室にまで関係がありそうだと最後に書いている)、暁星中学校という特殊な教育環境、卓越した語学能力の一方で、ケンカやいたずらなど反抗的精神から繰り返される退学、麻薬中毒、貧乏のどん底生活が描かれます。天国と地獄を両方見るようなところが、この本を魅力的にしているのでしょう。

 あいの子ということで幼い頃受けた差別体験、中学校時代の反抗的いたずら、貧乏時代のさまざまな職業、戦時中の特高による収監、戦後その特高の人たちからの掌を返したような厚遇、芸者への英会話特訓、ドン・ボスコ教会との確執、息子の窃盗・殺人事件など興味あるエピソードが語られます。なかでも終戦直後、米兵を相手にする夜の芸者たちに特殊な英会話を教える一節は余人にはまねのできない境地に達しています。

 学生時代から詩を書き、フランス語翻訳で文壇に若くして登場したことから、詩の世界で色んな付き合いがあったようで、無名の人も含め詩人たちが大勢登場するのもこの本の魅力になっています。

 高橋睦郎が門司東高校の2年生の頃に雑誌へ投稿したときの詩「シェルパの祈り」が引用されていますが、これまで読んだ高橋睦郎の中でいちばんいいのではと思うくらいの作品でした。  
 この本は面白いですが、話があちこちに飛んで、時系列のまとまりに欠けるのが傷。


 『エコール・ド・パリの日本人野郎』の方は、フランスが舞台です。読んでいて痛快なのは、次から次へと奇怪な人物が出てきて、波乱万丈の活躍を見せるところ。劇画を見ているように面白い。人物が生き生きとしていて、戦前の日本人がのびのびとおおらかに生きていたことに感銘を受けました。まだ日本が世界に売り出し始めたころに海外へ行こうという人たちだから、特別に豪快なのかもしれません。

 なかでも印象に残った人物は、仏語がほとんど喋れない割に豪胆な活躍をする彫刻家佐藤朝山、柔道の実力もさることながら多彩な才能を見せる石黒敬七、豪胆で腕っ節も強い藤田嗣治、黙って金を置いていく奇人パトロンの中西顕政。もちろん学術的な支援を行なったオーベルランや生活無能力者的な武林無想庵など、まっとうな?人たちも出てきます。

 松尾邦之助は東京外語フランス語文科卒業ですが、同期に渡辺紳一郎神吉晴夫、安藤更生がいたそうです。大杉栄も外語卒というのは初めて知りました。