ANNE RICHTER『Cauchemar dans la ville』(アン・リヒター『町なかの悪夢』)

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ANNE RICHTER『Cauchemar dans la ville』(HRW 1995年)

                                             

 森茂太郎の「ベルギー幻想文学私記」(「小説幻妖 弐」所収)で知った作家で、Baronianの『Panorama de la littérature fantastique(フランス幻想文学展望)』にも名前が載っていました。子ども向きの本のようで、簡単な文章で書かれていたのと、117ページと少なかったので、4日ほどで読み終えました。と偉そうに書いても、単語や言い回しは知らないものや、すっと出てこないのがあって、1ページに二つ三つは辞書を引かないといけませんでしたが。

 

 書き方はかなり手慣れた感じを受けましたが、子ども向きの限界があって、どうしても話が単純になり、人物が類型化して、先が読めてしまうのと、怖がらせようという仕掛けや、ユーモアで和ませようとするところが目について、十分楽しめませんでした。あらすじは次のようなものです(ネタばれ注意)。

 

広大な地所を持つ家庭の好奇心旺盛な姉と弟の二人の子どもが主人公。弟の目線で語られる。満月の夜、弟が狼の遠吠えで目覚め、長年空家になっている隣家の方から物音が聞こえたので、行ってみると、びっこを引いた男が誰も住んでいない洋館の中に消えた。石を投げて男を外へおびき出したすきに、建物に入ってみたが恐くなって這う這うの体で逃げ出す。

 

姉に話すと、姉は以前図書館で調べたことがあって、15年前隣家が引っ越しする直前に近隣で謎の失踪事件があったらしいと言う。図書館で昔の新聞をもう一度調べ直すと、ハロウィーンの夜に事件が起こっていたことが分かる。今日は10月15日だ。隣家を夜見張ることにする。1週間後の金曜の夜また男が現れたが背の高い別人だった。後をつけるうちに見失い、その後びっこを引いた男が現れた。姉は同一人物だと言う。

 

次の金曜のハロウィーンの日に的を絞って見張ることにした。カーボーイに仮装した姉弟の前に、また背の高い男が現れ、つけて行くと、男は突然苦しみだし路上に倒れた。再び起き上がったときはあのびっこの男になっていた。顔は灰色の毛で覆われ口元は犬のようだった。狼男だ。後をつけて行くと、バットマンの仮装をした小さな男の子を襲って肩に担ぎ、館の方へ戻ろうとする。しかし狼男は自分の姿をハロウィーンの仮装と思っている男の子の初心さを見て改心し、ひとり館に戻って館に火を放った後、銀の弾を自らの胸に撃ち込む。

 

 終わり方は尻すぼみの感が拭えません。満月の夜に狼の遠吠えを聞くというところから始まり、銀の弾を撃ち込んで死ぬという典型的な狼男ホラーです。それに打ち捨てられた洋館という幽霊譚的雰囲気や、謎を追って徹夜で見張ったり尾行するといったミステリーの味わい、二人の男が同一人物という変身譚的要素が入り混じりながら、最後はハロウィーンの喧騒のなかで事件が展開していきます。両親も姉も、隣家に狼男の呪いがかかっているということを知っていたようですが、弟を恐がらせまいと黙っていたらしいことが分かります。