:フランス語学習参考書二冊

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福井芳男/丸山圭三郎『ボンジュール パリ―フランス語のこころ』(三修社 1977年)
小林正『フランス語の話し方』(大修館書店 1984年)


 パリへ行く前に読もうとした本です。『フランス語の話し方』は行きの機内で読む予定でしたが、ゴルフゲームに熱中してあまり読めず、結局帰国してからになりました。

 二冊とも、入門書だと軽い気持ちで対してはいけません。一冊目は、「ボンジュール パリ」という軽やかな題名や、著者たちがNHK語学講座の先生だったということに惑わされそうになりますが、読み始めてしばらくしていきなり連辞関係、範列関係という専門用語が出てくるように、普通の語学書ではなく、言語学構造主義の成果を取り入れた硬派の書物です。

 また二冊目も、ひと頃、著者の書いたフランス語の初歩の語学書を本屋でよく見かけたので、この本もよくある簡単な会話テキストかと思ってしまいますが、さにあらず、まず発音の基礎を踏まえてから、文法の視点からキーとなる単語を軸にした会話例、次に慣用的な言い回しによる会話例、そして最後にようやく場面別の会話篇が出てくるというようながっちりした構成になっています。ほとんどの例文が映画のセリフからの引用になっているので、実態に即した会話が勉強できますが、例えば初めの方に出てくる「Tu n’as pas envie de changer de conversation?―Pourquoi elle te gêne, cette conversation.(話題を変えないかね―なぜ迷惑なの、この話が)」なんて、とても初心者が口にするようなものではありません。


 『ボンジュール パリ』で、恥ずかしながら勉強になったところは、会話の学習ではテキストから離れて音を聞いてすぐ反応する練習が重要であるとか、文章を読む時は文章の順番通りに理解して行くのが重要であるとか、難しい単語を覚えるのはあまり意味がないとかを再確認できたこと、また16種類あるというフランス語の母音を口の開きの大きさや唇の形、音を口腔内の前で出すか奥で出すか、口から息を出すか鼻からも抜かすかによって、分類した「母音の梯形」という分類図(p80)が参考になりました。

 「大部の書物を、辞書を片手にフーフー言いながら読んで、読み終えてしまった快感は、おそらくエベレストに登頂した人の快感に似ているのではないでしょうか」(p14)という言葉にはまったく同感でしたし、そこに添えられた「どの程度理解したかというような質問はやめてください、それが問題ではないのです」という言葉に勇気づけられました。


 『フランス語の話し方』では、ふだん会話の多いフランス語の本を読むときに、慣用句的な言い回しや間投詞的な表現がたくさん出てきて、辞書を引こうとしてもなかなかその言葉に的中しなくていらいらすることがありますが、そういう言い回しがたくさん出てくるところが、私にとってはとても貴重でした。例えば、Ça ne vous dit rien? Ça y est! Ça alors!  Nous y voilà. C’est promis?  Dîtes. À quoi ça sert?  Comment cela?  Pas de quoi.  Ça ne fait rien.  Dites-moi.など。単に私が会話言葉を知らないだけの話と言えばそうですが。


 こうした語学書は読んでいるときは一瞬賢くなったような気がするものですが、読み終わってしばらくするとまた元の木阿弥になっているみたいです。語学の練習はたえず続けることが重要なんでしょうね。