:Robert Margerit『Mont-Dragon』(ロベール・マルジェリ『モンドラゴン』)


                                   
Robert Margerit『Mont-Dragon』(La Table Ronde 2006年)


 この作家は、昔ラルースの現代文学事典をぺらぺらめくっていた時に見つけた作家で、エキセントリックで熱狂的な人物が登場するといった紹介で興味を持ちました。3年前パリでの本買いツアーで購入した本。
                                   
 430頁もあるので、今回はためしに速読に挑戦してみることにしました。①まず分からない単語について、いつも毎回辞書にあたっていたのを今回は5つに1つぐらいに絞ること。②いつも2〜3頁を一段落として読んでいたが、今回は8〜10頁とすること。③音読、通読、要約の過程で、できるだけ音読時に意味をつかむよう心がけ、通読は分からなかった箇所だけにし、要約に関しては文章に沿ったまとめはやらず、おおまかに登場人物と場所、時間、出来事を中心に書き留めること。この方法で1日25ページ目標で読み進みました。いつものことで、要約はだんだんと物語にのめり込んでしまうとつい詳細に書いてしまい、なかなかうまく行きませんでしたが。


 タイトルの「モンドラゴン」は地名で、「龍山」という意味になります。この小説を一言でいうのは難しいですが、敢えて試みると、上質なハーレクインロマンスにポルノの要素を強めたものと言えると思います。何と言っても主人公のDormondという馬の調教師の造形がよくできていて、彼をとりまく女性たちの心理も巧みに描かれています。

 おおよそのストーリーは、リモージュ地方の田舎の城館に新しく馬の調教師Dormondがやってくるところから始まります。ひと目見て女性たちが心を動かされるような男で、かつその男も15歳の時従姉妹のスカートの中を覗いてから悪魔が乗り移ったようになった好色漢。策を弄して城館の女主人Germaine、その娘Marthe、女中Pierretteと次々に堕落させようとします。フランス心理小説やルナール「狐物語」のずるがしこい狐の伝統を感じさせ、また団鬼六の羞恥小説のような場面もあり、スリルのあるストーリーが展開します。

 この物語のもう一つの魅力は、背景に描かれる馬の登場する場面の美しさで、精悍な馬の姿、種馬の繁殖力とDormondの好色な力の親和性が一つのポイントになっているように思われます。Dormondはまた馬術にかけては超一流で、荒馬も軽々と乗りこなします。著者も相当馬には詳しいと見受けられました。そして城館をとりまくリモージュ地方の森の自然の美しさも魅力の一つです。

 怪異的な部分は、ジプシーの魔女のようなのが出てきて、羊の心臓を使って呪いをかける場面ぐらい。結果的にはその呪いが効いたのか・・・

 そのDormondが中心となってすべての物語が展開していたのに、あと50頁ぐらいのところで、その要の人物が突然死んでしまいます。事故死、自殺、殺人のいずれか? 警察の訊問などもあり、その後は一種のミステリー小説のようになります。伏線として調教師と古くからの使用人の対立が描かれていて、使用人への疑惑が出てきますが、実は・・・(これはさすがにミステリーの種明かしになるので書けません)、結末は少女小説のようにほのぼのとした未来志向で、いささか拍子抜けの感は否めません。


 序文を斜め読みしただけですが、ジュリアン・グラックがこの小説を絶賛しているようで、またジャック・ブレルがDormond役になって映画化もされているようです。小説としてはなかなか巧みに作られていると思いますが、いかんせん私と趣味が合わない。