:古本に関する本、二冊

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岡崎武志/山本善行『新・文學入門―古本屋めぐりが楽しくなる』(工作舎 2008年)
山本善行『定本 古本泣き笑い日記』(みずのわ出版 2012年)


 先日善行堂で求めた二冊。四天王寺京都市勧業館古本市を前に、気分を高揚させようと読んだものです。


 『新・文學入門―古本屋めぐりが楽しくなる』は、岡崎武志山本善行の対談をまとめたもの。お二人とも古本についての厖大かつしっかりした知識が身についているのに感心しました。記憶力が昔からおぼつかない私としては、たいへん羨ましい。

 この本のいちばん魅力的なところは、お二人が高校時代から気心の知れた仲だけあって、突っ込みと返しがあうんの呼吸で間髪入れずに展開されているところです。知的漫才を見ているかのよう。また読んでいると、ここで紹介されている本が無性に読みたくなってしまいます。それほど、お二人の言葉の感染力、発信力がすごい。文学の世界に足を踏み入れたばかりの人なら、お二人の趣味に完全に染まってしまうことでしょう・・・いや偉そうなことを言っているこの私も、早速探求書リストに書きこんで明日から古本屋をまわろうとしているではありませんか。

 お二人が造本にかなりこだわりを持っているのがよく分かりました。この本でも「絶版文庫による文學入門」のページは、四六判の大きさの中にまた文庫本を広げたようなページが印刷されていたり、表紙が二枚重ねになっていて表側は下三分の二で上の部分がギザギザになっている(写真参照)など、面白く感じました。表紙には岡崎武志の面白漫画も載っている。


 『定本 古本泣き笑い日記』は、山本善行氏の古本購買日記です。まだ善行堂を開店する前のもので、一古本蒐集狂が、雑誌への連載を経て、古本に関する本を出版したりテレビへ出たりと、古本ソムリエとして存在を確立していく姿と、がけ書房への古本出品や、塾の仕事の大変さへの言及など、古本屋開業へとつながる道のりが綴られています。

 旧版『古本泣き笑い日記』や『関西赤貧古本道』が初めて本屋の店頭に並んだときの記述は、あちこちの新刊書で自分の本を買ったり、家族そろって眺めに行ったりと、嬉しさが伝わってきて涙が出そうになりました。

 この日記全体に、本や、作品、作者に対する愛情があふれていて、著者の素直な人柄が出ていて、好感が持てます。こうした本の良いところは、なまじ文学評論が難しい語句をちりばめてもっともらしいことを言おうと屈折しているのに対して、ストレートで球を投げているというところでしょうか。

 この本を読むと、自分の古本日記が本記録に終始していて、何の愛想もないことに気づかされました。もう少し一冊ずつの本の内容に触れないといけないのかも。あまり意識すると負担になるしと悩むところです。

 この本でもちらほら言及されていますが、古本店開業を意識すれば、W買いが苦痛でもなんでもなくなることに気づきました。私ももう二箱分ほどW買い本がたまっているので、ひと箱古本市にでも出品しようかと考えております。


 最後に名言録。

この作家はダメだとは思わないで、ひょっとしていい作品もあるかもと。そういう気持ちが大事やな(山本)/p57

1980年代半ばから文庫業界、ひいては出版業界に地殻変動が起こってる感じやな(岡崎)/p181

文学回想を読むのはなんでこんなに楽しいんやろう(山本)/p241

本職の物書きだと、どうしても最初に説明してしまうところやけど、おかまいなしに自由に書けるところが、他業種のエッセイの妙味やな(岡崎)/p258

詩は青春期の甘い食べものではなくて、むしろ中高年から老年期になって分かってくる(岡崎)/p364

全集といっても、日本文学全集という企画は・・・ほんとは全集というより叢書やな(山本)/p372

以上『新・文學入門』より

三冊百円ということになると、これで買わない本はタダでもいらないということになるのだ/p134

こんなに古本屋をまわる時間があるなら、その時間を使って読書すればいいのに、と思うことがある/p286

以上『古本泣き笑い日記』より