:MAURICE PONS『ROSA』(モーリス・ポンス『ローザ』)

                                   
MAURICE PONS『ROSA』(DENOËL 1967年)


『la maison des brasseurs(ビール醸造業館)』(4/24記事参照)『マドモワゼルB』(4/28記事参照)に引き続いて、モーリス・ポンスを読んでみました。これもなかなか面白い小説でした。

 途中から私にしてはかなり速いペースで読むことができましたが、これは文章がやさしくなったのか、いや難しい単語も頻出していたからいよいよ上達したのか、と一瞬錯覚しそうになりましたが、おそらく具体的な事実を述べた文章で展開が予想できる物語だったからだと思います。


 1860年代後半、フランスのアルザス地方との境の町ヴァスケラムに駐屯する軍隊で起きた奇怪な兵隊大量失踪事件が語られます。1960年代にその資料を見つけたある歴史家が、その記録や当時の新聞、市長や司教への取材を総合し、事件の内容をドキュメントタッチで書き進めたなかなか迫真性のある描き方となっています。

 ただ途中でリアル感を出すため具体的な事実を列挙しようとするあまり、ヴァスケラムの居酒屋の変遷を述べるところなど、細かな具体的事実を書き過ぎている印象のところもありました。

 内容に触れるとネタバレになってしまいますが、この本のテーマは『マドモワゼルB』との親近性があり、女性の持つ魔力、母性の妖しさ、母権の力のようなものがテーマになっています。『マドモワゼルB』では最後まで、女性は神秘のヴェールに包まれ、正体を見せないまま、周辺の脅威が語られるだけでしたが、Rosaでは本人が堂々と姿を見せ訊問まで受けるのが相違点でしょうか。

 前半の事実列挙による失踪事件の展開に続いての後半部は、おとりとしてRosaの店に乗り込みRosaの誘惑を受けて戻ってきた男の証言が中心で、そのおとりを現世にとり戻す機械装置にも、失踪した兵士たちがRosaの胎内で彷徨しているという告白とその情景描写にも荒唐無稽で無理なところがあるように思いましたが、それを何とか文章でカバーしているのが逆に凄いとも言えます。

 最後に、それまで真実だと思っていた事件の全貌が、地元の新聞記事にはまったく別の事件として掲載されており、それまでの物語が一転して、訊問・証言を速記した書記の妄想だったのかという疑念に陥りますが、さらに最後のページで、あるキーとなる物品がRosaの店跡から発見されたという新聞記事が提示され、やはり妄想は現実だったのかもしれないというあやふやな境地に宙吊りにされたところで、物語は終わります。