:高橋邦太郎のパリ本二冊

///
高橋邦太郎『パリのカフェテラスから』(柴田書店 1976年)
高橋邦太郎『私のパリ案内』(主婦の友社 1977年)


 しばらくはパリについての本を読んでいこうと思います。まずは高橋邦太郎の本から。

 高橋邦太郎は、『パリのどん底』などいくつかの翻訳本を通してなじみのある名前でしたが、今回初めて読みました。いずれもパリへの愛情が滲み出た内容で、NHKに勤められていたせいか、語り口調のやさしい文章で書かれています。


 『パリのカフェテラスから』は、カフェテラスで友達と談笑するかのように閑談漫語を並べてみたというようなことが序に書かれているように、前半はコーヒーや料理についての薀蓄、ブリヤ・サバランの『美味礼讃』の内容の紹介、途中対談をはさんで、後半は著者の専門の日仏交渉史に関しての人物を中心にした話題で、肩の凝らない内容となっています。

 対談では、小門勝二氏との永井荷風をめぐる対談がめっぽう面白く、荷風の夜の散財ぶりがうかがわれました。

 後半の日仏交渉史に関する話では、若くしてフランスとの難しい外交に臨んだ池田筑後守の必死の交渉ぶりが日を追って克明に描かれていて、屈辱的な条約を締結させられた失意とその後の隠棲の日々を思うと同情を禁じ得ません。また鹿島茂の『妖人白山伯』に登場するのと同じ怪人たちのエピソードがいろいろ出てきて、懐かしく思い出されました。鹿島さんも少しは参照されたのかもしれませんね。


 『私のパリ案内』は一見旅行案内書のようでエリア別の叙述がなされていますが、類書と違うのは、それぞれの場所の歴史がエピソードを交えて分かり易く語られていること、著者の生活感に根ざした説明がなされていること、文学的な話題が各所にちりばめられていることです。

 とくに、フォーブール・サン・トノレのところで、香水に多くのページを割いて熱を籠めて語っているのが印象に残りました。

 恥ずかしい限りですが、知らなかったことのいくつかをご紹介しておきます。
ローマ人が聖ジュヌヴィエーヴの丘とシテ島との間に町をつくったが、それが現在のカルチエ・ラタンだということ(p19)、サン・ミシェル大通りを略してブール・ミッシュと呼ぶこと(p83)(そんなお菓子屋さんがありましたね)、パスポートを持っていないとトラックに押しこめられ一晩留置されること(p138)、クリニャンクールの蚤の市の6区画のうち、ヴェルネゾン、ジュール・ヴァレスには古本が多く、古本とか版画はだいたい男性の老人の店にあること(p158)など。