:フランス語読解の学習書四冊

///

倉田清『仏文和訳の実際』(大修館書店、1987年)
南舘英孝/石野好一『フランス語を読むために 改訂版―80のキーポイント』(白水社、1994年)
朝比奈誼『フランス語和訳の技法』(白水社、2006年)
後藤末雄『佛文和譯研究』(郁文堂書店、昭和17年


 昨年末は、フランス書読書をいったん中断して、フランス語読解の参考書を読みました。めくらめっぽう辞書を引き飛ばしながら読んでいるより、少し学習してから読んだ方が能率が上がると思ったからです。果たしてどれだけ身に着いたか。加齢とともに右から左へ抜けていくことの多いわが身には時間の無駄だったかもしれません。

 せめて少しでも皆さんのご参考にと、それぞれの本の特徴を述べてみます。


 『仏文和訳の実際』がいちばんオーソドックスな読解の参考書という感じです。全体が例文とその読解の形で進行します。第一部は文法項目に従って、ポイントを説明しながら。短文ですが最初は簡単すぎて馬鹿にしていても、それなりにだんだんと難しくなってきます。第二部は「応用編」。長文の読解ですが、前半はフランスの風土や歴史についての文章、後半は哲学、科学の評論文でとても難しくなります。訳は若干生硬な印象があり、誤植もところどころあって不安になりました。


 『フランス語を読むために』は『和訳の技法』の著者朝比奈氏も書いているように(p17)、構文の理解を効率よく学べるように工夫された本です。構文理解に必要な熟語的な言い回しを項目にして説明していますが、同じような熟語的表現がたくさん出てくるので、どれがどれか分からなくなってしまいました。


 『フランス語和訳の技法』がこれら四冊のなかで一番役に立つと思われました。単に仏文の和訳の技法を述べるのでなく、実際にフランス語を読んでいる読者の立場に立って書かれています。いつもフランス語を読んでいてよく困惑してしまうのは、コンマがいっぱい出てきて文と文のつなぎが分からなくなったり、主語と述語が倒置されているのを気づかずに意味不明に陥ったり、二重否定や比較の否定で結局肯定か否定か分からなくなってしまうというあたりですが、それらについて懇切な説明があります。ただ、いまだよく分からず手を焼いている「;」「:」についての説明が聞きたかったところです。

この本の特徴は、また、出版されている既存の翻訳を取り上げて、原文を見ながらその訳し方の微妙なニュアンスを追求し優劣を評価していることです。いろんな有名な訳者が取り上げられていますが、一番手厳しくやられているのは、杉本秀太郎中村真一郎、少し嫌味を言われているのが生島遼一高橋たか子、褒められているのは高橋裕子大橋保夫といったところでしょうか。


 『佛文和譯研究』は講義の速記録をもとに作成したもののようで、読解の説明からところどころ脱線して、歴史や思想史の解説が途中に入ってくるあたり、講義を聴いているのとまったく同じ感覚で読める本です。懇切丁寧な説明がされていて、こういう講義を昔聴いていたなら今頃こんな体たらくではなかったのにと残念です。

 後藤末雄のような大学者ですら、文法解釈で迷っているところを正直に告白し、「ご高教に接したいものです(p134)」などと書いてあるのを見ると、親しみが湧くと同時に、学問はいくら行けどもまだまだ先があるものだと感じさせられました。