:RENÉE VIVIEN(ルネ・ヴィヴィアン)『La Dame à la Louve(狼を連れた女)』(ALPHONSE LEMERRE, 1904)


 とても読みやすく順調に読み進めることができました。220ページの本を10日間で読めたことになります(日本語の本も並行して読みながら)。これはこれまでの最速記録です。フランス語が易しいのはイギリス生まれで半分イギリス人だからかも知れません。

 小説あり、散文詩あり、エッセイあり、詩劇ありといった構成。小説であっても、文章の繰り返しや、詩の引用があるなど詩的な要素が見られますし、文章そのものにも詩的な美しさが感じられました。

 レスビアンの作家ということでもっとエロティックな雰囲気を期待していましたが、Bona Dea(ボナ・デア)を除いて極めてまっとうな小説集でした。残念。さらに夢見心地を打ち破られたことには、男女の性格や性役割がかなり強く意識された物語が多く窮屈な感じがしたことです。もし今日の世界に生まれていたらまずウーマンリブの闘士になっていたのは間違いありません。

 La Dame à la Louve(狼を連れた女)では意志強固な女、La Soif ricane・・(渇きが笑う)では男を支配し馬鹿にする女、Trahison de la Forêt(森の裏切り)では勇敢な女、La Chasteté paradoxale(貞潔の逆説)では愚かな男と対比された毅然とした女、La Saurienne(蜥蜴女)では男を誘惑する蜥蜴女、Le Voile de Vasthi(ヴァスティのヴェール)では王に服従せず女王の地位を投げ捨てる女、Brune comme une Noisette(榛の実のような女)では貞操の固い女という具合に、大半の作品が強い女をテーマにしています。

 直接強い女を描いてなくても、男の野蛮さをジャン・ロラン風悪徳的雰囲気のうちに描いたCruauté des Pierreries(宝石の残酷さ)や、男よりも死を望む女を描いたBlanche comme l’Écume(海の泡のように白い)、女性の静謐さを讃美したLes Soeurs du Silence(沈黙の修道女)などは、女の強さ、正しさを主張しているもののように思われます。

 女性の同性愛的な雰囲気を直接テーマにした作品としては、Le Prince Charmant(素敵な王子)―女性が男装して女性と結婚する話、Bona Dea―極めてストレートな女性への愛の語りかけ、Psappha charme les Sirènesシレーヌたちを魅惑するプサッファ)―女性の園へと誘う散文詩、L’Amitié Féminine(女性の友情)―女同士の強固な友情について語ったエッセイがあります。

 その他では、Le Club des Damnés(地獄クラブ)が唯一男女のテーマから離れ、地獄を垣間見る話で面白い作品ですが、これ以外、Svanhild(スヴァンヒルド)は白さを求めて霧の立ち込める山の中へ入って行く女性を描いた詩劇でとても成功しているとは言えませんし、La Splendide Prostituée(素晴らしい娼婦)にいたっては男女間で繰り広げられる抽象的な会話の連続のみで語学力不足もあいまって正直よく分かりませんでした。

 何篇か選んで短編集を作るとすれば、Bona Dea、Le Prince Charmant、La Dame à la Louve、La Soif ricane・・、Trahison de la Forêt、La Saurienne、Brune comme une Noisette 、Cruauté des Pierreries 、Le Club des Damnésといったところになるでしょうか。


 標記の本と関連して雑誌「L’ÉVOCATION VOL.Ⅵ ルネ・ヴィヴィアン特輯」を読みました。RENÉE VIVIENの写真が載っていますが、とても美しい人なので写真もアップしておきます。
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 RENÉE VIVIENは繊細な感覚の人で、男の野蛮で粗野な振る舞いを嫌悪し、また東洋に憧れていたようです。マルセル・ティネールという人の訪問記によれば、中国の繻子とおぼしき布を張り巡らした部屋には香が焚きしめられ、提灯の明かりのもと、黒檀の家具が置かれ、中国の鐘や日本の書物、それに東洋の仏像や女神像が並んでいたとのこと。喫煙室でソファーに横たわりながら阿片の混じったタバコを吸ったと報告されています。

 残念なことに、Vivienはアルコール中毒と拒食症が原因で32歳の若さで亡くなっています。年譜によれば明治40年8月に日本にも来たことがあるというのが驚きでした。