:Claude CÉNAC(クロード・セナック)『DES MILLIARDS DE SOLEILS』(無数の太陽)

 しばらくごたごたでフランス語の本を読んでいませんでしたが、少し落ち着いたので易しい本から読み始めました。ジュニア向けの本なので、さすがに10日ちょっとで読めました。


 これは確かずっと前に百万遍古書市で買ったものです。クロード・セナックという著者名を見て、どこか頭の片隅にあったクリフォード・シマックという名と混同し、この本もファンタジー、SF的な内容だったので、買ってしまったようです。


 喧騒に満ちたパリで体調を崩した主人公が静かな田舎へ休養に行くというところから物語は始まりますが、主人公が列車で乗り合わせた見知らぬ婦人から、これから主人公が行く場所にまつわる不思議な噂を聞くという冒頭部分、また、出迎えに来た叔母さんに見知らぬ婦人から聞いた噂に関して質問した時の何かを隠そうとするエキセントリックな反応、そして馬車から見る町の風景が噂どおり荒廃した様子・・・という導入部には、日本の伝奇ものにも共通するある種の気配を感じさせ、これから何かが起こるという予感を漂わせていて成功しています。


 この古い町にはドルメンとそのそばに泉がありましたが、ある日突然泉が枯渇して、町の人々が出て行ってしまったのです。叔母と羊飼いだけがこの町に残りました。羊飼いは泉の枯渇した原因として、羊飼いのおじいさんがドルメンにやってきた宇宙からの異人類を銃で撃ってしまい、その復讐として起こったことと説明しますが、叔母は端からたわごととして取り合いません。


 そうした中で、ある嵐の夜に、主人公が夢か現実か分からないままに、再び宇宙から来た異人類と出会い、友好を深め泉を復活させてもらうというのが大筋の話です。


 宇宙には太陽が無数にあるので、異人類がどこかにいるはずである。ドルメンは、実は宇宙から来た異人類が大昔に来て作ったもので、人類は異人類に火や道具の使い方を教わって今日に至った、という史観が語られます。「月に人類が行くぐらいだから、宇宙から異人類が来ても不思議ではない」という会話が出てきますが、1971年の出版なので、ちょうど人類が月へ行った直後の感動を感じさせられます。


 主人公が15歳の設定で、宇宙から来た異人類も同じ年頃、おまけに妹がいてその妹に一目で恋してしまうという安直なストーリーには、10歳代前半を対象にしたジュニア小説である限界があるように思います。


 空想的な話を嫌がる現実的な叔母と、逆に空想の世界に生きているような羊飼いという対照的なキャラクターを配する一方、喧騒に満ちたパリと美しい田舎の風景の対比、また科学技術と詩という対比も途中で語られますが、最後に主人公が田舎に永住することを決意したことや、羊飼いの言ったことが正しくなる展開からすると、どうやら著者は後者の方に軍配を上げたがっているように見えます。


 巻末に著者へのインタビューがあり、物語の背景や作品中の疑問について尋ね、著者が丁寧に答えていますが、これはこの本が教科書的に使われることもある証でしょうか。