:Patrick Modiano(パトリック・モディアノ)『Les boulevards de ceinture(環状大通り)』

パトリック・モディアノ『環状大通り』

 神保町T書店店頭100円均一購入本。今まで読んだModianoのなかではいちばん起伏がなくまた理解に苦しむところが多かった。
 
 父と子の物語。ふがいない父とそれを見守る子、最後に子が父を守り復讐する。Mon pèreという言葉が随所に出てきます。Modianoの個人的な父への思いがこれを書かせたのかもしれません。 

 物語は一枚の写真から始まり一枚の写真で終わる。この循環のイメージがタイトルの環状大通りと重なっています。

 舞台はパリ近郊フォンテーヌブローの森のはずれの町、怪しげな仕事をしている連中の仲間になっている父を主人公の子が探し出します。母の手一つで育てられた主人公の父との思い出といえば、高校を卒業する間際に突然現れ二人で貧しい共同生活をしばらくしたこと、ある日プラットフォームで主人公が転落した事故の直後に、また突然姿を消してしまったことぐらいです。

 父を探し当てた主人公は父の子であることを隠しながら、悪い連中と付き合っていきます。父は彼らに馬鹿にされ痛めつけられ続けており、情けない対応をしています。主人公はそれを見守り続けていますが、とうとう最後には堪え切れなくなり仲間の一人を殺してしまい、父と二人でベルギーへ逃亡しようとするところで物語は終わります。
  
 例によって私の読解力のなさも手伝っていくつか謎が残りました。一枚の写真の情景を描写するところから始まり、写真を見ていた子が父を探してその写真の中の物語に入って行き、最後にバーテンから写真を見せられながら物語を聞く若者の話で終わりますが、子と若者とは同一人物なのでしょうか。

 物語の途中で、子が混雑するプラットフォームで突き落とされますが、父がなぜ子をプラットフォームで突き落とそうとしたのか、あるいは突き落としたのは父ではなかったのか。
 この物語で中心的に語られる悪い連中と父とはどんな関係にあったのか。そして物語の最後の方、父と子とは無事ベルギーの国境を越えることができたのでしょうか。

 いくつかの面白いエピソードがあり、父と子が古本商売を手がけるところで、偽の献辞を本に書き込んで高く売りつけるシーンがあるのが笑わせられました。また国際夜行列車の個室での売春の話しが出てきますが、いかにもありそうなことだと思わせられました。往復で8人も相手したというのにはびっくりしましたが。

 登場人物の一人に、Dédé Wildmerという騎手が出てきます。以前の作『Rue des Boutiques Obscures』にも騎手が登場しその名がAndré Wildmerというのは偶然でしょうか。