:M・エリアーデ『ダヤン・ゆりの花蔭に』

ikoma-san-jin2009-03-11


 この本は新刊で買いそびれて以来、ずっと古本で探していたものの長年見つからなかったが、全集が出てから、なぜかよく見かけるようになった。

 最近と言っても一月以上も前に読んだ本。最近はとある事情で徒歩通勤となったため、通勤電車で本を読むというサラリーマンにとって貴重な時間が失われてしまった。途端に読書量が大幅にダウンしてしまった。何とかせねば。

 この本は◎としたいところだが、若干謎が大き過ぎてよく分からないところが足を引っ張った。『死靈』と発想が近いように感じられる観念小説である。M・ブリヨンの幻想小説が絵画的/内面的/一人称的/時系列的であるのに対し、演劇的/構築的/錯綜型であるように思う。

 「ダヤン」は、一種の神秘体験の下に悟りを開いたような状態になった天才数学者と、ロシア監視下のルーマニアを比喩するかのような密偵特高的な人物とのせめぎあいが、病院を舞台に繰り広げられる。蒙昧な人びとが神眼を持った人物に見抜かれて狼狽するといった構図が何度も繰り返し語られて面白い。

 「ゆりの花蔭に」は、暗示的なフレーズが、偶然、それぞれ立場の違う登場人物から異口同音に語られる神秘がポイントで、またそれがどうやら迫害されているパリのルーマニア人の合言葉的なキーワードであることが知られる。しかしその中身は神秘のまま残される。オーソン・ウェルズのローズバッドを思い出した。