:PATRICK MODIANO(パトリック・モディアノ)『VESTIAIRE DE L’ENFANCE(子どものころの衣裳部屋)』

ikoma-san-jin2008-12-30

パトリック・モディアノ『子どものころの衣裳部屋』

 何とか年内に読み終えることができました。
 モディアノ独特の想い出探しの情緒に溢れた一篇です。

 これまで読んだモディアノ作品は、記憶を失った主人公がハードボイルド探偵のように過去を探すというような構図が中心で、殺人事件や国外脱出など波乱に富んだ過去の一端が見え隠れし、次はどうなるかという強い力を感じさせられました。

 今回は本人の記憶ははっきりしていて、本人自身の過去を探るというよりは、現実の街で出会った若い女性Marieが思い出のなかの少女、実はむかし愛していた女性Rose-Marieの娘ではないかというところが謎になっています。

 波乱万丈な展開はこれまでのなかでは一番抑えられていますが、それにしても過去に暗い翳を持つ亡命者の吹き溜まりのような植民地で、尾行をつけられているというシチュエーション自体何となくワクワクするものがあります。

 そしていつものように謎は半分ほども解明されることなく(解明されたかどうかすら分からないまま)静かに幕を閉じてゆきます。

 読み終わってこれを書いているうちに気付いたことですが、(読んでない方にこういうことを書いても分からないと思いますし、これから読もうという方には種明かしをして申し訳ありませんが)、このMarieの父親は、実は主人公が原稿を書いている放送番組の仲間Mercadiéだという気がしてきました。

 若い女性がなぜわざわざこの吹き溜まりのような土地に来たかその訳、そしてMercadiéが、主人公の書いたラジオの呼びかけ原稿、20年前の○月○日○時、パリの○番地の建物前に停めてあった車の中に忘れた籠についての情報を求める内容を見て、その建物に自分が住んでいたことがあると告白しながら、そこの2階に住んでいた女性と小さな女の子を覚えていないかという質問に言い澱んだ不自然さは何かあると感じさせられました。はじめの方にMarieとMercadiéが話す場面がありますが、Marieが職を求めて放送局にきたのでなく、父親と面会しに来ていたんだということも伏線になっている気がします。