:音楽関係2冊、竹原正三著『パリ音楽散歩』、林巧『エキゾチック・ヴァイオリン―アジアの響きをめぐる旅』

  
1冊目は竹原正三著『パリ音楽散歩』
 著者は元バリトン歌手、オペラ青年グループを結成数々のオペラの日本初演をした方だそうで、その後パリに定住、日本語学校の校長先生をされていたとのことです。

 さすがにパリ在住者だけあって自ら街中を歩き回って地図に印しをつけ写真も撮り、その図面と写真が冒頭豊富に紹介されています。

 記述はいささか無味乾燥ですが、細かくいろいろなことが載っていて辞書のように活用できる本。ところどころ面白いエピソードが出ています。

 『カルメン』『ラ・ボエーム』などわれわれが通常知っている作品以外に、同じ台本で他の作曲家がオペラにしていて、『セヴィリャの理髪師』にいたってはロッシーニ以外になんと7作曲家以上がオペラにしていることや、A・フランスの『鳥料理レーヌ・ペドーク亭』までもがオペラ化されているなど、ヨーロッパのオペラの層の厚さに感心しました。

 またパリが音楽家や作家にとっての国際都市であって、モーツァルトロッシーニショパン、リスト、ワーグナーやハイネ、ワイルドなどが長期にわたって住んでいて、ショパンとリスト、ハイネ、ドラクロワが交流したり、リストとボードレールが会っていたことなど、いまさらながらその凄さに驚きました。

 プッチーニではなくピッチーニというイタリアのオペラ作曲家が居たり、ショベルトという作曲家が居たことも面白い。



 2冊目は林巧『エキゾチック・ヴァイオリン―アジアの響きをめぐる旅』
これは中国、シンガポールインドネシア、香港、台湾の弦楽器をめぐる旅の記録です。
 以前同じ著書で『世界の涯ての弓』という小説を読んでいたことを思い出しました。随分前なので記憶が定かでないのですがあまり面白くなかったように覚えています。このノンフィクションの方が小説的興趣があり味わい深く読めたように思います。登場する人物に魅力があリ、いきいきと描かれています。胡琴を弾き売りする男、月琴を抱えた盲目の婆さん、胡蝶琴売りの娘、タクシーの運転手など。

 明治初期に邦楽と西洋音楽以外に、中国の明清楽が一大勢力をなしていたこと、邦楽がガムラン音楽圏に入っていたことなど、新らしい知見を得ることができました。ヴァイオリン族の楽弓がコントラバス、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンの順に楽器の大きさに反比例して長いことも今まで気付きませんでした。

「東洋人がヴァイオリンでヴィヴァルディを弾くことには、ヨーロッパ人にはきっとわからない、ひとつの興趣がある。」というセリフも素晴らしい言葉だと思いました。