J.-H.ROSNY AINÉ『LA FEMME DISPARUE』(J=H・ロニー兄『消えた女』)


J.-H.ROSNY AINÉ『LA FEMME DISPARUE』(COSMOPOLITES 1925年?)


 幻想小説アンソロジーでよく掲載されているロニー兄の作品です。以前、『L’ÉNIGME DE GIVREUSE(ジヴリューズの謎)』という分身を扱った超自然的小説を読んだことがありますが(2022年11月5日記事参照)、本作は、幻想小説やSFのジャンルに入る作品ではありませんでした。

 大衆冒険読み物といった感じで、結局は一種の探偵小説。冒頭から自然を舞台とした追跡劇があり、一気に物語に引き込まれました。今回は謎解き小説で、ネタバレが致命的になるので、犯人解明の最後の部分は略しますが、およその物語は、次のようなものです。

若くして美貌のフランシスカ夫人は、手紙を持って、幼馴染の兄妹のところへ行こうと、森のなかを馬車で進んでいると、悪漢3人に襲われた。御者は殺されてしまうが、彼女は子どものころから森でよく遊んで熟知していたので、巧みに追っ手をかわして逃げる。一方、夫人の到着を待っていた幼馴染のシモーヌは、夜になっても来ないので、村長に連絡し捜索隊を出してもらう。捜索隊は、襲われた馬車を見つけ、中にあったスカーフを犬に嗅がせて、あちこち探す。森の湖の近くで彼女の帽子が発見されたが、ついていたダイヤがなくなっていた。近くに小舟があり、血しぶきの痕があった。

翌日、予審判事、パリから凄腕で評判の刑事もやってきて、調査が始まる。シモーヌフランシスカ夫人が何か不安に怯えていたと証言する。がそれが何かは分からない。刑事は、フランシスカをねらった事件か、単なる追剥か、決めかねた。捜索隊が、犯人を追い詰め、3人のうちの一人の確保に成功した。問い詰めると、3人組の一人元骨董商の男に誘われたという。その男は刑事もよく知っている狡猾な盗賊だった。捜索隊はまた、手袋を湖の対岸の岩場で見つけたと知らせてきた。次に、森の狩番から、こんなものが郵便受けに入っていたと封筒を持ってきた。それは、フランシスカから彼女の恋人シモーヌの兄ミシェル宛に書かれたものだった。

タイミングよく、兄が遠方から急を聞いて駆けつけてきて封を開けると、身の危険を感じているから、遺産の一部を兄妹に分けるという内容で、ほかに死んだと思っていた娘が生きていたという密告があったことを明かしていた。3人組のうちもう一人も、森で隠れているところを発見された。男は帽子についていたダイヤを持っていて、ミシェルが問い詰めると、フランシスカは小舟に乗って逃げたという。死んでなかったと知ってミシェルはホッとする。フランシスカ失踪の報を受けて、彼女の姪とその叔母の独身婦人もシモーヌの家にやってきた。ほどなく、パリに逃げていた元骨董商が愛人とともに捕まったという知らせがあった。

二人を村へ連れもどして尋問すると、この事件の首謀者は別の男で、その男からたまたまバーで依頼されたということが分かった。愛人はシモーヌになら話すと言い、首謀者の風貌について詳しく話す。その後、フランシスカの目撃情報ももたらされた。が、その周辺に聞き込みをしても収穫はなかった。刑事たちが戻ると、家に居たシモーヌはもう一度戻りましょうと提案した。シモーヌは医者も同行させ、聞き込みの際は知らないと答えていたフランシスカの友だちの家に直行すると、奥の部屋でフランシスカが譫妄状態で寝ているのが見つかった。さらにシモーヌは、驚くべき推理を働かせ、首謀者の人相書きを描いて、事件の真相を暴いていく。


 予審判事、凄腕の刑事らプロたちが事件に取り組むなかで、失踪した女性の幼馴染が素人なのに次々に謎を解いていくという痛快な探偵ものとなっています。登場人物の個性の描き分けが面白くて、次のような感じです。

予審判事は、静かで分別があり正確に仕事をこなすが、自らの洞察力の欠如を感じていて、事件が混み入ってくると、観察を続けて時が解決してくれるのを待っている。事実はそのうち自ら語り出すものだというのが持論。捜査を先頭で進めている者の意思を邪魔しないというのが取柄。

パリから来た刑事は、難事件を次々と解決する辣腕で評判で、現われただけで刑事と分かるような雰囲気、尋問する態度にもいかにも刑事らしい怖さがある。調査を進めながら、さまざまな可能性を推理し、それをみんなに披露する。シモーヌが次々謎を解いていくのを素直に悔しがる。

シモーヌは、予審判事の寛容さに感謝し、刑事の推理の中からヒントを得ながら、持ち前の想像力と女性の勘とで、事件の謎を一つずつ解決していく。悶々としている兄ミシェルの心を見破り、フランシスカ夫人との仲を取り持つのも彼女。 


 フランシスカ夫人の娘の名が、ロザリオから途中でロザリトに変わって、また最後にロザリオに戻りましたが、単なる印刷ミスか、呼び名がもともと変化するものか、よく分かりませんでした。