:金子民雄『ルバイヤートの謎』


金子民雄ルバイヤートの謎―ペルシア詩が誘う考古の世界』(集英社新書 2016年)

                                   
 珍しく新刊を読みました。出かける時に軽い本をと鞄に入れたのがきっかけです。すでに知っているような話が三分の一はありました。新書なので、ルバイヤートを初めて知る人の入門書だと思います。それなら、もう少し手引き的な要素が必要な気がします。書き方に少し散漫なところが見られますし、『サマルカンド年代記』など「ルバイヤート」に関する重要な本もいくつかあるのに触れてませんし、初心者向けの参考文献も巻末にありません。これは編集の問題だと思いますが。
 
 著者はもともと中近東の歴史の専門家のようで、その視点から「ルバイヤート」を解説しているのがこの本の特徴。ハイヤームの当時の歴史状況や地誌的な説明、またハイヤームの墓や記念館の話など現地を訪れた著者ならではの解説は貴重です。また著者は自ら『ルバイヤート』を訳されたようで、一部の訳が載っているのが「ルバイヤート」コレクターにとっては嬉しい。

 「ルバイヤート」には、酒と花(薔薇、風信子鬱金香)がよく出てきますが、チューリップ(鬱金香)の故郷が、ハイヤームの故郷ニシャプールからトルキスタンにかけての砂漠と草原地帯だそうで、この土地はまたガラスの産地でもあることから、著者はワイングラスのあのチューリップ型のスタイルはこの土地の二つの特産物の出会いから生まれたと推測しています(p122)。

 また、宮沢賢治の詩のなかに「天の椀」という言葉があり、同じような表現が賢治の高校時代の同人誌に仲間が翻訳した「ルバイヤート」のなかに出てくるので、その影響があるとし、他にも賢治の作品には『千夜一夜物語』の影響もあると指摘しています(p144)。所持しているだけでまだ読んでいませんが、別の著作『宮沢賢治と西域幻想』のなかで、賢治と西域の関係を展開しているようです。

 これをきっかけに、所持しているルバイヤートをゆっくりと読んでみようと思います。