:デ・ラ・メア評伝


新里文八郎『DE LA MARE』(研究社 1935年)

                                   
 デ・ラ・メアをずっと読んできましたが、このあたりで一応の締めくくり。デ・ラ・メアの評伝と作品紹介の本です。研究社の「英米文學評傳叢書」の一冊。この叢書は10数冊ほど所持していますが、古本を手あたり次第買っておくと、こういう時便利です。

 作品紹介のなかで、「老獅子号」や「魔法のジャケット」などずいぶん抜けているのがあるなと思っていたら、この本が出版されたのがまだデ・ラ・メアの壮年期だったので、納得しました。

 著者は、「デ・ラ・メア」を「デラメア」と表記しています。そういえば『耳を澄ますものたち他』の村松眞一氏も「デラメア」と表記していました。著者は、①全部でひとつの姓になっていること、②詩人の父親がDelamareと綴っていたこと、③ウォルター・デ・ラ・メアと書いた時、どこまでが名前でどこからが姓か分からない、といった理由を挙げていました。

 全部で121頁あるうちの71頁が詩作品の紹介で占められ、生涯や小説作品にはわずかなページしか割いていないのが特徴です。デ・ラ・メアは基本は詩人だという思いがあるのでしょう。また訳詩に添えて原詩の引用がふんだんにあるところがこの本の魅力です。例えば次のような詩は原詩を読まないと面白さは分からないでしょう。「蜂の歌」という詩で、Z音で蜂のうなりの模写を試みています。Thouzandz of thornz there be/ On the Rozez where gozez/ The Zebra of Zee・・・(p40)。


 いくつか新しく知るところや面白い指摘がありました。
デ・ラ・メアの詩の特徴として、月光が頻繁に出てくること、また人物描写というジャンルがあると指摘しています。前回私が挙げた特徴には洩れていました。
②「苔」、「夜道に迷って」、「冬」の三つの短篇で構成される「鐘が鳴る」という小説の存在を教えられました。病的な印象を与える暗い墓場を背景にして40ほどの墓碑銘が出てくるとのこと。著者はこれを「墓碑銘文学」というジャンルの作品とし、ほかにアメリカの新開地を背景としたマースターズのSpoon River Anthologyという作品があると書いていました。墓碑銘に関心があるので、これらをぜひ読んでみたい。
デ・ラ・メアの母のルーシー・ソファイアは海軍軍医コリン・アロット・ブラウニングの娘で、詩人のロバート・ブラウニングと遠縁。また、この軍医は豪州行きの囚人船に乗り組んでいたとのこと。


 この本を読んで気に入った作品は、詩では、蠅の目から見た世界を驚異をもって描いた「蠅」、永遠にしぼまない極楽浄土の花はないものだろうかと詠嘆する「蔭」、細部を巧妙に創りあげた神の営為に感嘆する「奇蹟」、月の薄明を歌った「月光」、恋人の夢の中へ入って行こうとする「フェル女」、なぜこの婦人はヴェイルをかぶっているのかと問う「ヴェイル」、医者が痛みの原因は骨だとあっさり患者の骨を抜くナンセンス詩「骨」。

 小説では、上記でも触れた墓碑銘文学の「鐘が鳴る」、魔法の卵を嗅ぐ力があるという乞食の言葉を信じ家中卵を探し回る盗賊が登場する「盗人」、生れた時蝋の鼻と言われて日にも当てず大事に育てられた男がある日開眼する「鼻」、夢で見た船荷のなかに夫の魂があったことを、原因不明のしょんぼり病にかかった夫にどうしても言えない妻を描いた「船着場」。