:JEAN LORRAIN 『Contes pour lire à la Chandelle』(ジャン・ロラン『蝋燭の下で読むお話』)(MERCURE DE FRANCE 1897)

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 一昨年大阪の古本屋で購入した本。1897年出版というかなり古いもので、写真のように革できれいにルリユールされています。

 今年はじめのフランス語読書なので、ページ数も少なく文章も易しそうなものを選びました。しかも昨年読んだ『Princesses d’ivoire et d’ivresse』と半分近くが重複していたので、9日間ぐらいで読むことができました。
 
 重複した4編については、半年ほど前に読んだのに単語はすっかり忘れていましたが(1時間前に読んだものでも忘れているので当たり前か)、物語の雰囲気はよく覚えているもので、さらに味わい深く読めたような気がします。

 子どもの頃に女中から聞いた話や、幼い頃田舎へ行った時の思い出を綴っていて、タイトルからも一見子ども向きの話と思わせますが、中身はとんでもない、作者も文中で「病気で寝ている子どもの熱を高ぶらせるような異常な物語」と書いているように、残酷な世紀末趣味が横溢した物語集です。
 
 散歩している人と出会いこれから毎晩ここを散歩しますと言っていた人が実はその前日亡くなっていて、それから毎晩20年間散歩をし続けるという幽霊譚(「Introduction(序)」)、
宝玉を鎧のように身に纏った600歳の姫が悪い鼠に唆され飾り紐を齧られてて宝玉をバラバラにされ死んでいく物語(「Contes pour les enfants malades(病気の子どもたちのための物語)」)、
老女が魔女との嫌疑をかけられ、留守中に愛猫3匹を火傷させられカラスは丸裸にされ、帰ってきた老女がその阿鼻叫喚の有様に発狂する話(「Madame Gorgibus(ゴルジビュ夫人)」)、
女中の鏡と町中で評判だった女中が死んだ後もせっせと掃除をする幽霊譚(「La bonne Gudule(女中のギュデュール)」)、
台所の器物や料理のお化けが大喰らいの子どもを脅かすグランヴィルの版画を思わせる百鬼夜行の話(「La reine Maritorne(女王マリトゥルヌ)」)など。

 とくに最後の「Sur un portrait(肖像画)」は幼い日への追憶の情があふれ、謎めいた雰囲気と寂しい風景が読後余韻を漂わせる散文詩のような趣きの佳編です。前回読んだときは他の作品に気を取られてそんなに強い印象がありませんでしたが。