:JEAN LOUIS BOUQUET『L’ombre du vampire』(ジャン=ルイ・ブーケ『吸血鬼の影』)


JEAN LOUIS BOUQUET『L’ombre du vampire』(marabout 1978年)
                                   
 前回読んだ『LE VISAGE DE FEU(炎の顔)』(2011年5月24日記事参照http://d.hatena.ne.jp/ikoma-san-jin/20110524/1306196623)に比べて、一般向け(子ども向けか?)に面白おかしく書かれているため、文章もやさしく、比較的簡単に読めました。

 「L’ombre du vampire(吸血鬼の影)」「La reine des ténèbres(夜の女王)」「Le fantôme du parc Monceau(モンソー公園の幽霊)」の三篇が収録されています。なかでは「Le fantôme du parc Monceau」がいちばん。いずれもDoumという新聞記者が活躍する探偵小説の形を取っていますが、序文でFrancis Lacassinが幻想探偵小説と名づけているように、背景には前回同様オカルト的な世界が舞台として使われています。

 前半で広がる異様で怪異な雰囲気が、後半急激にしぼんでしまうのは、探偵小説の限界なんでしょうか。序文によると、ブーケ自身も探偵の存在や犯人の逮捕という単純な探偵小説の枠組みを嫌っていて、人物の錯綜や数々の陰謀、小道具を廃しながら、それを心理的な描写や神秘的な要素を組み入れることで補いたいと考えていたようです。

 もともとブーケは映画のシナリオ(これが子ども向きらしい)を書いていて、はじめて大人向きに書いた小説が探偵小説的な冒険の形を取っていたことから編集者の目にとまり、探偵小説を書かないかと勧められたといいます。それで幻想小説の探索の構造を利用しようと思ったということです。



 各篇を簡単に紹介します(探偵小説なのでとくにネタバレ注意)。


×L’ombre du vampire(吸血鬼の影)
 前半は不気味な雰囲気で物語を引っ張るが、後半の解決部はがっかり。連続殺人の犯人と思われている友人のために新聞記者Doumが乗り出す。友人の隣室には人形を集めている目つきの悪い赤毛の男、向かいの役人の部屋で夜な夜な繰り広げられる怪しいパーティ、その部屋の夫人の失踪、そして友人はその赤毛の男に呪いをかけられ警察へ連続殺人の犯人として自首して出たのだった。今度はある別荘で今度は赤毛の男が死んでいるのが見つかる。Doumは役人の部屋にも赤毛の男と同じ人形があることから、その人形を使った麻薬密売を嗅ぎ出す。結局、赤毛の男は密売の共謀者であった役人の夫人に殺され、友人は繊細な神経のあまり勝手に妄想を抱いて自首し、連続殺人事件は偶然に複数の殺人事件が重なっただけだということで終わる。


La reine des ténèbres(夜の女王)
 今度は一転、江戸川乱歩の少年探偵団を読んでいるかのような活劇だ。若者二人がパリ郊外の別荘の庭で繰り広げられる異教の集会を覗き見、一人が逃げ遅れて捕まってしまう。そして若者の相談を受けたDoumとインドの暗殺教団との死闘が始まる。別荘を急襲、しかしもぬけの殻だった。Doum自ら別人に成りすまして敵陣に乗りこむ。追跡があったり、追っ手を撒いたりするが、ついにはDoumは捕まって正体がバレてしまう。秘教の儀式の生贄になろうとするところで、シャンデリアから天窓伝いに危うく脱出、最後は警察が乗り込み、燃え盛る伏魔殿で首領と女王は火の中に飛びこむ。


○Le fantôme du parc Monceau(モンソー公園の幽霊)
 探偵小説としてもしっかりした枠組みを持ち、幻想的要素とのバランスもよい佳篇。前半は古式ゆかしい幽霊譚。兄夫婦と妹が住む館で、兄嫁の容態が急に悪くなる。その兄嫁に恋い焦がれ自分を恋させようとした術中に事故で死んだと噂されるオカルト学者がいて、その助手の男が最近近くに引っ越してきて館の周りをうろつき出してからだと言う。そして妹は博士の幽霊を見る。依頼を受けたDoumはその館に泊まりこみ、博士の幽霊を待ち受けるが現われなかった。次にその助手から申し出があり、妹を実験台にして博士の魂を降霊することになるが、魂が現われ何かを告げると妹は恐怖に慄き中断してと叫ぶ。結局、犯人は妹。幽霊話は疑いを反らすために仕込んだ狂言で、兄嫁への嫉妬から少しずつ毒を盛っていたのだった。