:自転車関係2冊

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のぐちやすお『実践的サイクリング―1日100キロ超えをめざす 自転車でもっと遠くへ行くための基本ノウハウ36』

エンゾ・早川『まちがいだらけの自転車えらび―幸福な自転車乗りになるための正しいロードバイクの買いかた』

あと少しで定年になることでもあり、定年後に近所を走り回ったり古本屋へ行ったりするのに、新しい自転車を買おうと思い、自転車の本を読みました。


この2冊は、両方とも本格的な自転車に乗ろうという人たち向けのもので、あまり参考にはなりませんでした。どちらかというと『実践的サイクリング』の方が具体的で今後もし長距離に挑戦する時には参考になる本です。


実践的という言葉のとおり、著者の経験に基づき極めて具体的なアドバイスが散りばめられています。初心者向きへのアドバイスとして、自転車に乗っていてよく事故の起きるパターン、四季別の自転車の乗り方、地図の見方、準備品。そして走行距離が伸びて行くに連れて必要な心構えが、50キロまで走るようになったら、パンクの直し方や、尻痛対策、気温別走り方、雨の日の走行の仕方、疲れ対策、100キロで、峠の走り方、トンネルの抜け方、夜の走り方、輪行エスケープルートの作り方、海外走行の秘訣と、懇切丁寧に解説されています。


著者の人柄は、半ズボンに速乾性Tシャツといういでたち、ぴちぴちのサイクリングウエアではない、に現れています。著者にとってのサイクリングはスピードではなく、小洒落たファッションでなく、また街中ののんびりサイクリングでもなく、ただ距離をひたすら走るという一昔のワンダーフォーゲル的山岳部的な楽しみなんでしょう。一言で言えば野人でしょうか。


代わって、『まちがいだらけの自転車えらび』の著者の性格はあまり好きになれません。一言で言えばすし屋の頑固親父。悪口を言うためにこれを書いているわけではないので、これくらいにして、この本を読んでよかったことは、自転車の細かいメカに関する自転車メーカーのマーケティングについて販売店ならではの知見が披露されていることで、内容は別として、そういう細かいところでしのぎを削っている世界があるんだということが分かったように思います。


これまで私が読んだ自転車関係の本のなかでは、いちばん私にぴったりしていたのは、白鳥和也という人が書いた2冊の本です。『スローサイクリング―自転車散歩と小さな旅のすすめ』、『素晴らしき自転車の旅―サイクルツーリングのすすめ』で、両方とも平凡社新書の本です。


両方とも4年ぐらい前に読んだ本でしかもいま別宅においてありますので、当時の読書ノートをもとに、少しご紹介します。


『スローサイクリング』
これほど自転車の気持ちよさを代弁してくれる本はありません。他の本は外面的なことに終始していますが、この本は徹底的に自転車乗りの内面にこだわって書いています。詩の本を読んでいるような気持ちよさがあります。ということで一言で言えばこの人は詩人でしょうか。


自転車で走っていて気持ちのよいところとして、具体的な地名も含めさまざまな場所や状況が語られています。

長野県南牧村野辺山高原/p21、

開けた空間(例えば、河川沿い)/p60、

線路沿い/p63、

臨海エリア/p67、

古くから存在していた道(昔の道は、人や牛馬が曳く荷車の通行を考えて作られていた面があり、極端な急坂はできるだけ避けるようにしたもの、と著者は言います→以下()内は著者の言葉)/p74、

迷う愉しさ/p74、迷い込みそうな道(例えば城下町)/p78、

海岸線/p84、砂洲が形成した湾の内側や、その類縁である潟湖の周辺など(そもそも海岸の形成の理由からして、フラットな地形であることが常識的)/p86、

しまなみ海道のサイクリングロード/p91、

高原の湖の周り(サイクリングロードの整備にも力を入れてきたケースが目立つ。・・・湖岸線が面白いのは、ひとつは道路と水面との高低差が少なく、水がより身近に感じられることだろう。)/p93、

スティル・ウォーター(すなわち静かなる水面と呼ばれ、とくに山上のそれは、しばしば瞑想的、形而上学的な景観としてとらえられる。)/p94、

川なのか海なのか、どうもあまり判然としない、汽水域の下流、川幅には広がりが出て、流れもゆったりになる/p96、
琵琶湖湖東の水郷/p101、

旧道/p110(現在車が行き交うような道からほんの数十mか100〜200m程度間を空けて、これと平行するように走っているようなケースが多い。)、

東海道や中仙道に交わる支線的、亜幹線的な旧道(観光的資本の投下や行政の強い肩入れなどはないのかもしれないが、その分、ある種作られたような演出もまた少ない。)/p114、

廃線跡サイクリングロード/p125、

北海道サロマ湖の東部、常呂町(砂洲は海面と湖面から10mほどの標高があり、なだらかな丘のように続いていた。まるでそれはオホーツク海サロマ湖の間に続く異界のような領域、この世のものとは思えぬ夢幻的な空間だった。)/p128

人口10万に満たないような地方の中小都市、実に素晴らしい町並みがあったりする。(街のそれぞれが違う表情を見せるのは、そこに暮らす人々の気風が違うからでもある。)/p132

美術館、博物館を訪れる。/p179

神社仏閣の深み/p182

自転車に匹敵するほどの詩情をたたえた乗り物がほかにあるとすれば、それは、帆船やヨット、木製の手漕ぎボート、気球やグライダーぐらいなのではなかろうか。/p148


『素晴らしき自転車の旅』
前著と比べると技術的な解説が多いが、やはりいたるところに、著者らしい感性や意見が鏤められていて好感が持てます。とくに最後の1週間のツアーの記録とあとがきには泣かされました。

古い街道には、そこを旅した人々の、いまは地上から消え去った人々の、さまざまな思いや行いの残照が、さながらそうした通りを行く祭りの日の神輿や松明の揺曳のように、今も人知れず息づいているような気がしてならない。/p59

9月の第1週に自転車旅に出発するのが、何より好きだ。・・・8月の余韻を残しながら、陽光にも風にも透明感が現れてくる。/p241