:中世美術の本続く。馬杉宗夫『大聖堂のコスモロジー』


馬杉宗夫『大聖堂のコスモロジー―中世の聖なる空間を読む』(講談社現代新書 1992年)
                                   
 この本を読み出して間もなく、これを先に読むべきだったと思いました。まったくの門外漢を相手にして、ゼロから教会建築のことを教えてくれる本です。要領よくまとめられていて、文章も読みやすく、入門書としては最適だと思います。

 著者については、以前『黒い聖母と悪魔の謎』『ロマネスクの旅』の二冊を読んで、このブログでも書きましたが(http://d.hatena.ne.jp/ikoma-san-jin/20090717/1274831229)、吉川逸治、黒江光彦に次ぐ第三世代の研究者と言えるでしょうか。

 エミール・マールをこの後読みましたが、教会の彫刻が世のあらゆるものを表わしているという「石の百科全書」の概念、とそれを「歴史の鏡」「科学の鏡」「道徳の鏡」「自然の鏡」に分類しているところはマールの書物をそのまま紹介した形になっています。ただ著者も「あとがき」に書いているように、この本は教会の建築全体を論じているところに特徴があるのでしょう。

 この本は無知な私にいろんなことを教えてくれました。これを書いた後またすぐ忘れると思いますが以下にご紹介します。
教会を上から見た時十字架の横棒にあたる袖廊が、信徒が並ぶ俗なる身廊と、聖なる祭室を分断するために作られていること(p16)
シリカ形式は古代ローマの公共建築から受け継がれていること(p16)
中世の教会教父たちが、八という数字を復活を象徴する数と考えていたこと(p27)
ゴシック時代の大聖堂西正面の二基の塔は、夏至の時に昇る太陽と、冬至の時に昇る太陽の位置に置かれていること(p40)
塔は、中世教会堂ではじめてヨーロッパ建築に登場してきたこと。ギリシア人の美意識では、塔のような人間的尺度を超えて天高く聳える建造物は拒否されること(p42)
キリスト教は、ユダヤ教とは反対に、偶像制作の伝統のある地中海文明圏のなかで発展せざるをえなかったこと(p66)
巨大なもの、豪華な装飾や光り輝く宝石などを、神に奉仕するにふさわしいものと考えていたクリュニー派の美意識が、次のゴシック美術の精神と結びついていったこと(p79)
中世の神秘主義神学の光への愛が、ゴシック建築の発展をうながし、ステンドグラスの発展をうながしたこと(p100)
ロマネスク聖堂が人里離れた片田舎の修道院建築であったのに対し、ゴシック建築は都市の大聖堂(カテドラル)となったこと、それは司教座(カテドラ)が置かれたことによるもの(p106)
初期ゴシックから古典的盛期ゴシック彫刻、さらには後期ゴシック彫刻への展開は、アルカイック期、古典期、ヘレニズム期と展開する古代ギリシア彫刻の発展史と同じ傾向を見せていること(p201)
などなど。