:PATRICK MODIANO(パトリック・モディアノ)「Dans le café de la jeunesse perdue(あの若き日のカフェで)」

ikoma-san-jin2009-09-19

パトリック・モディアノ『あの若き日のカフェで』

 栄の丸善で購入。モディアノの最新作だと思います(と言っても2007年刊)。人気作家のまだ訳されていない新しい本を読むのは原書で読む楽しみの一つです。タイトルがいかにもモディアノらしい。表紙の写真がモノクロで何ともいえない情感をそそります。

 今回は一日10ページのペースで気持ちよく読むことができました。ワンフレーズを一塊として読むスピードが少しついてきたような気もします。が野の木の翁さんが「Modianoはあれは何あの易しさは」と言うくらいの文章ですから、そんなに上達はしていないに違いない。相変わらず何度も同じような単語を引いたことでも知れます。

 モディアノはこれで5冊読んだことになりますが、相変わらず謎めいた雰囲気で、過去のある時期を回想するのが基本のトーン。喪失感がつねに漂っています。この取り戻せないという思いが抒情的な味わいを醸し出します。

 今回は5つの章に分かれ、別の話者が話を進めていくのが、いままでに読んだのと違って(だったかな?)新鮮。はじめはLe Condéというこの本の主要な舞台になるカフェの様子を客の一人の視線で描き、次に主人公の一人Loukiという女性の夫が雇った探偵Caisleyが捜査の展開を語ります。そして次にLoukiが自分の生い立ちを回想し、最後にMorandというLoukiが最後に付き合っていた男性が思い出を語ります。

 というように登場人物が次々に登場し連鎖しながら展開していきますが、ところどころほのめかしが見え隠れし、過去のいくつかの謎に収斂していきます。
それがわざと謎のままに据え置いているのか、単なる語学力不足のせいで読み落としているのか、よく分からないところがもどかしい。

 例えば、最後にマンションのベランダから飛び降りて死んでしまうLoukiの死の誘因は何だったのか。幼少期に一人ぼっちだった不幸が尾を引いていたのだろうか。別れた夫とのことなのだろうか。最後に会った母の友だちLavigneが関係しているのだろうか。それとも単に女友達Jeannetteと一緒に飲んだ麻薬(「雪」という隠語で表現される)の悪影響だろうか。

 また、本当の父は誰だったのだろうか。Moulin Rougeの経営者か、母の友だちLavigneか、あるいは夫が雇った探偵Caisleyか(最後にLoukiが死ぬ病院になぜか来ているのが不自然)、それともまったく知らない男なのだろうか。

 カフェの常連や、神秘主義者、自称詩人が次々に狂言回しのように登場し、カフェの常連が語る「都会の無名の人々が行き交う定点としてのカフェ」や、神秘主義者の語る「永劫回帰」や「どこでもない場所」というフレーズがこの本のテーマと響きあっているようです。