G・O・CHÂTEAUREYNAUD『La Belle Charbonnière』(Bernard Grasset 1976年)
『Les Messagers(使者)』に引き続き読んでみましたが、期待にたがわず、ますますシャトレイノーが好きになりました。いろんな趣向の短篇が10篇集められています。いずれもどこか奇妙な味があり、8篇は幻想譚。うち4篇は夜の彷徨の物語です。またグロテスクと滑稽が交じり合ったような境地を描いたものがいくつかありました。それ以外でも登場人物の雰囲気や文章表現にどことなく滑稽味が感じられるところがあり、それが味わいの一つになっています。
3篇には献辞がついていて、二人は知らない人でしたが、一つはHubert Haddadに捧げられていました。Haddadについては、このブログでも『Le Secret de l’immortalité(不死の秘密)』、『Le peintre d’éventail(扇絵師)』の二冊を紹介していますが、とくに前者はシャトレイノーのテイストに近いものがありました。ネットで調べてみると、若い頃一緒に雑誌を出していたようです。
各篇を簡単に紹介します(ネタバレ注意)。
Un épisode obscur(暗い出来事)
闇を嫌がり夜中明かりを点ける父親と豊満な女中を残して、少年は金庫の金を盗んで家出する。靄のかかった北国から陽の降り注ぐ南の国へ。自由に憧れる少年の脱出行を回想とともに描く。
Les paons(孔雀)
田舎の家で孔雀と暮らしていた夫婦。彼らはまた死を趣味とし探求していた。旅行から帰った日、家具を片付け乱痴気騒ぎをして、その翌朝、妻に化粧を施しベッドに寝かしつけた後、夫は家にガソリンをまき火を点けて、裸になって野原に向って歩き出す。神話的でグロテスクだがよく解らない一篇。
◎Un citoyen nous parle(ある町の出来事)
錆が町を覆っていくというバラード風の一種のSF譚。大理石の牧神像の傷口から錆の粉が霧のように溢れ出て来るなど、細密な描写に魅力がある。
◎La belle charbonnière(美しき炭焼き女)
戦争に明け暮れ身も心もボロボロになった老騎士が遍歴の途上、森番の家に泊まった時、川中の島に、100歳は越えているはずなのに17歳にしか見えない美女がいると聞かされ、川に赴く。老騎士はそこで一瞬若さを取り戻すが・・・。物語の導入も終わり方もすばらしい。竜宮譚の一種。
〇L’habitant de deux villes(二つの町の住人)
荘子の胡蝶の夢を思わせる夢譚。学生が毎夜、町を彷徨していると、夢の中でその続きが現れ始め、同じ夢が反復するうちに夢の中の部屋に住むようになり、夢と現実が逆転し出す。現実に別れを告げるためか、泥酔の乱行に及ぶのがやや破調をきたしている。
〇Dernier amour(最後の愛)
夜の彷徨中に、小学校の頃通った校舎にさ迷いこんだ男。幼友達との思い出を辿るうちに、机の上に昔刻んだイニシャルを見つける。その少女の幻影が現れ追いかけようとした時、守衛に撃たれて死んでしまう。黄金時代への憧憬に溢れた一篇。
◎Paradiso(天国)
豪華客船の旅の途中に寄った天国のような島。一人旅の男は夢見心地になって、山上にあるという「幻想ホテル」を目指す。陽気な若者たちと鬼ごっこをするうちに、次第に凄惨な様相を呈してきて、気がつくと…。酒乱の悪夢のようなグロテスク綺譚。
◎Magnus(マグニュス)
アムステルダムに絵を見に来た男。世の中は劇場で、まわりは皆役者、自分一人だけが知らないという妄想に捉われる。売春婦にこの世は芝居だと言い、カフェで出会った女性にあんたも騙されていると説得しようとして逃げられたあげくに、楽屋裏を見つけたと信じ込み運河の暗渠に落ちていく。映画「トゥルーマン・ショー」を思い出した。
◎Ténèbres(暗冥)
夏の終わり、出社しようとして女性とぶつかって異変に気づいた。その女性は何年も前に死んだ女中だった。次に犬に追いかけられて逃げ込んだ家で、昔近所にいた不幸な家族を見る。薬を求めた薬局では昔の先生…。会う人すべてが過去に知っていた人たちという悪夢の中に突き落とされる。
◎Newton go home!(ニュートン帰れ!)
サーカスで見た空中ブランコ乗りの不自然な動きに不信を抱き、深夜の秘密練習を盗み見すると、鳥のように空中を飛んだ。その秘密を知ろうと彼の部屋の向かいに引越し双眼鏡で見張り、尾行し、留守の間に部屋に侵入する。彼は生まれつき重力の支配を受けない男だった。サーカスの雰囲気が嬉しい一種のSF譚。