:ルバイヤート第4弾! 名句引用

 パリへ一緒に行ったり京都で卓球するなど親しくしていた友人が急逝しました。亡くなる二日前に電話で話し元気そうだったのが不思議です。人生の無常を感じる経験をして、ルバイヤートの詩句が心に染みてきました。第3弾で終える予定でしたが、急遽、各訳本の中で心を打つルバイヤートの名句、解説の中で印象に残ったフレーズを引用します。


もともと無理やりつれ出された世界なんだ、/ 生きてなやみのほか得るところ何があったか?/ 今は、何のために来り住みそして去るのやら/ わかりもしないで、しぶしぶ世を去るのだ!/p13
またの世に地獄があるなどと言うのは誰か?/ 誰か地獄から帰って来たとでも言うのか?/p15
創世の神秘は君もわれも知らない。/ その謎は君やわれには解けない。/ 何を言い合おうと幕の外のこと、/ その幕がおりたらわれらは形もない。/p16
一滴の水だったものは海に注ぐ。/ 一握の塵だったものは土にかえる。/ この世に来てまた立ち去るお前の姿は/ 一匹の蝿―風とともに来て風とともに去る。/p42
この幻の影が何であるかと言ったっても、/ 真相をそう簡単にはつくされぬ。/ 水面に現れた泡沫のような形相は、/ やがてまた水底へ行方も知れず没する。/p42
この永遠の旅路を人はただ歩み去るばかり、/ 帰って来て謎をあかしてくれる人はない。/ 気をつけてこのはたごやに忘れものをするな、/ 出て行ったが最後二度と再び帰っては来れない。/p44
天国にはそんなに美しい天女がいるのか?/ 酒の泉や蜜の池があふれているというのか?/ この世の恋と美酒を選んだわれらに、/ 天国もやっぱりそんなものにすぎないのか?/p72
ないかと思えば、すべてのものがあり、/ あるかと見れば、すべてのものがない。/p85
腑に落ちないのは酒を売る人々のこと、/ このよきものを売って何に替えようとか?/p90
以上、小川亮作訳『ルバイヤート』より


世の人々のあくがるる/ 希望(のぞみ)はむなし、さかゆとも/ 砂漠の上の雪に似て/ しばしかがやきやがて消ゆ。/p18
われ若きときひたぶるに/ 博士賢者の門に入り/ 高き教を仰ぎしも/ 出づればもとの無智にして。/p31
何地(いづち)よりまた何故と/ 知らでこの世に生れ来て/ 荒野を過ぐる風のごと/ ゆくへも知らに去るわれか。/p33
われ大地より昇りゆき/ 空の果をもうちきはめ/ また道すがら謎解けど/ 生死の謎ぞ解きかねし。/p35
如何にひさしくかれこれを/ あげつらひまた追ふことぞ、/ 空しきものに泣かむより/ 酒に酔ふことかしこけれ。/p43
以上、矢野峰人訳『四行詩集』より


われらが消えても、永遠に世はつづき、/ われらの生の痕跡も、名ものこりはしまい。/ われらが生まれるまえ、この世に欠けたものはなにもなく、/ われらの死後、なんの変化もあるまい。/p78
以上、岡田恵美子訳『ルバーイヤート』より


得見えぬ神は汝が探す手をば脱れて/ 水銀のごと萬象の中駈けゆきて、/ 魚となり月となり萬象の形となりぬ。/ 物なべて滅びゆけども神のみはひとり留る。/p53
地獄の怖れ、はた楽園の期待とや、/ さはれともあれ確かなること一つあり―/ わが生命(いのち)飛び去ることぞ。他はなべてなべて虚偽(いつは)り/ 一たび咲きし美(よ)き花は散りてまた永遠(とは)にかへらず。/p65
混沌の闇のさなかに看物師(みせものし)/ 提燈(ちょうちん)のごと手に掲げたる太陽(ひ)の下を/往来(ゆきき)するかの不可思議の影像よ。/ あゝその影ぞわれらの歩む行列に外ならず。/p70
以上、奈切哲夫訳『ルバイヤット』より


我は再び言はん、世には我等に取って無関心なる二つの日あり、未だ来らざる日と、永久に過ぎ去りし日と。/p29
何人も未だ神の秘密を被へる面被(ベエル)の裡を過ぎし者はあらず、何人も遂に其裏(そのうち)を過ぐることあらざるべし、/p30
一方の手に「コオラン」を取り、他方の手に盃を持ち、正と邪との間に戦慄せよ。/p37
酒を飲め、我兄弟よ、此(この)世は風の一息(ひといき)に過ぎざればなり。/p106
楽しきは美しき盃にて赤き酒を飲むことなり、楽しきは琵琶と竪琴の婚姻せる諧調を聞くことなり。/p112
我はこの麻の葉(ハッシシュ)の我酒盃の中に入れ、かくして我憂愁の蛇の息の根を絶たん。/p175
酒を飲む者のみ薔薇と葡萄の言葉を理解することを得べし、/p176
昨宵(さくせう)我は酒店にて一瓶(いっぺい)の酒に対して自己を質入しぬ、〈見よ、何たる優れたる抵当物よ〉と酒を量る者は言ひぬ。/p178
以上、片野文吉訳『ルバイヤット』より


更に尽くせ一杯の酒 われら亡き後も/ 月盈(み)ち虧(か)けてとどまらじ/p19
春は来り 冬は去り/ われらの生命の書巻(ふみ)もまた閉じぬ/ 酒のみて悲哀を去れ/ 聖者も言えり悲哀の毒は酒もて解かれんと/p19
されど終わりに臨みて聞ける言葉は/ われら土より来たり風の如く去ると/p29
杯持ちて恋人の髪を撫でよ/ その髪世に在るはしばしの間なれば/p37
廻るこの世にわれらまどいて/ 思えらく そは廻転提灯の如しと/ 太陽は灯にして世界は提灯の骨/ われらその内に影絵の如く右往左往す/p51
記せよ わが腐土よりは酒瓶のみを造れ/ その瓶酒に満つる時 われまた甦らん/p63
以上、陳舜臣訳『ルバイヤート』より


流れて已(や)まぬ歳月の醸し出しし/ 最美の酒に譬うべき愛する人々、/ ひと循(めぐ)り、ふた循り、盃乾して、/ 一人、また一人、黙しつつ眠りに就きぬ。/p99
やがて我等も土に入り、/ 土より土へ、土の下に横たはらむ。/ 酒なく、歌なく、歌姫なく、終り無く。(フィッツジェラルド原詩Before we too into the Dust descend;/ Dust into Dust, and under Dust to lie,/ Sans Wine, sans Song, sans Singer, and―sans End!)/p104
我が来たりしや、水のごと。我が去るや、風のごと。/p113
さて帳(とばり)の陰に働ける、「我の中なる汝」の闇の中に、/ 燈(ともしび)を得んと諸手を挙げぬ。/ 外よりぞ聞ゆる声。/ 「汝の中なる、盲ひたる我。」/p125
生きて居る限り、飲め。一旦、死んだら、決して帰って来ないのだから。(While you live, Drink!―for, once dead, you never shall return.)/p129
以上、長谷川朝暮『留盃夜兎衍義』


夢の中にて理智の光は如何に薄きかな/ あまつさへ夜の妄想は選ぶなし/p28
高嶺に上りて八紘を見互す時/ 水晶の如き泉のほとりを逍遥(さまよ)ふ時/ 偉(おほい)なる力を身近く感ず/ 梢をわたる幽なる声を心底(むなそこ)に聴く/p29
人生は渦巻 死は隠没(おんもつ)/ 苦難を潜らぬ若人は知らざれ/ 年積みて回転は迅く/ 轟然(ゴーッ)と呑まれてあとは闃然(ヒッソリ)/p34
曰く「人の生(よ)は只一日に過ぎぬ/ その尤も美はしきとき老衰は喰入りて/ あたら咲きたる花を地に委ぬ/ 一切の憧(あくがれ)は痕方もなく消失せて」/p44
短き夢は墓に行止り/ 楽しき時は支へんに力なし/p51
以上、堀井梁歩訳『異本ルバイヤット』より



解説の中で出会ったフレーズ
皆一の所に往く。皆塵より出で皆塵にかへるなり(傳道之書)。(All go into one place; all are of the dust, and all turn to dust again.)/p126
以上、矢野峰人『近代英詩評釋』より


萬物は流転し、一物として止まるなし/ 人其の足を再び元の流れにひたし難し(ヘラクレートス)/p113
世の中を何に譬へむ朝びらき/ 榜(こ)ぎにし船の跡なきがごと(万葉歌人、沙弥満誓)/p114
水の流れは流れて止まず/ 去りゆかば、また帰へる日ぞなし。/ その如く、日と夜は、絶えまなく/ はかなき宿命、人々の生命をば運び去りゆく。(『ヒトーパデーサ』)/p134
以上、奈切哲夫訳『ルバイヤット』より


ギリシャ思想に依れば、運命の三女神が有って、先ずクロウソは、生命の糸を紡ぎ出す。人間の生れて来るのは之に因るのである。次にラケシスは、其の糸の長短を査定する。人間の寿命は、之に依って極まる。最後に、アトロポスが、其の糸を鋏で切る。人間の遂に死する所以である。/p9
「自分の力」などと云う物は無いのである。自分自身が自分の力で出来た物で無い以上、どうして「自分の力」などと云う物が有り得ようか。/p9
こそこその話がやがて高くなり/ピストル鳴りて人生終る(石川啄木)/p122
こし方は一夜(ひとよ)ばかりの心地して/八十年(やそじ)あまりの夢を見しかな(貝原益軒の辞世)/p150
以上、長谷川朝暮『留盃夜兎衍義』より