:笹本駿二『ローヌ河歴史紀行―アルプスから地中海へ』(岩波新書、1980)


 先日、退職記念旅行と称して、スイスの山を見てきました。ローヌ氷河を見て、ベルナーオーバーラントの美しいパノラマ風景、のどかなヴァリス地方を通過したことなどから、そう言えばこの本を以前買っていたことを思い出し読んでみました。


 海外に出かけるときは、その国に関連した本を幾つか読んでから行く慣わしですが、今回はツアーで行ったのでガイドブックすら読まず、帰ってきてからとなりました。


 新聞記者だけあって分かり易い文章、旅行の案内書としては好適です。その土地の自然や歴史を紹介しながら、その土地と密接な作家などの人物をとりあげ、立体的なふくらみを持たせています。
 ヴァリス地方ではリルケレマン湖ではローザルクセンブルク、スタール夫人、アルルではドーデという具合に。


 リルケの『ミュゾットの手紙』は学生時代読んだはずですが、ミュゾットがスイスのヴァリス地方にあるとはまったく覚えていませんでした。スイスの山の魅力を詩人らしい感性で的確に表現した文章に感心しました。

シエールとシオンの地・・・この土地の風物のなかにスペインとプロヴァンスとが奇妙に混じり合っているのが、一も二もなく私を捕らえてしまったのです。・・ここの谷はそれはそれは広く大きくて、偉大な山脈のなかに小高い丘が一面に並んでおり、きわめて魅力に富んだ変化の遊戯、いわば丘の将棋遊びがたえず見られるわけです。・・・立つ場所の異なるにつれておどろくばかり配置の変わるその風景のリズムは、こんなにも創造的な力に溢れています。/p34

 ライン河とローヌ河の淵源がサン・ゴタール峠の東と西側で、わずか45キロメートルしか離れていないということも初めて知りました。


 この本が書かれたのは30年も前ですが、すでにツェルマットでは自動車の乗り入れが禁止されていたようです。現在は電気自動車が走っていますが、当時は馬車あるいは人力車だったのでしょうか。


 共産主義に関連した人物が多く登場したり、労働者階級という言葉などが出てくるのは時代を感じさせられました。