:バルトルシャイティス馬杉宗夫訳『異形のロマネスク』、馬杉宗夫『黒い聖母と悪魔の謎』

  
バルトルシャイティスの新刊とこの本を訳している馬杉宗夫の本2冊もあわせて読みました。

『異形のロマネスク』はとにかく凄い本です。
あまりの凄さに読み始めはわくわくしてどうなるかと思ったくらいでした。多少中だるみがあったのですが、その理由は翻訳が若干生硬なこと(元の文章も硬そうです)、参照する図版の頁の位置がずれているので、すぐには参照できないこと。あまりにも図版の例証が多く、しかも重複、錯綜していると感じられたからです。もう少し単純化して整理できないものかとも思います。

しかしこの本の魅力はその多すぎる図版にあると言えます。しかもすべてシャイティスが自らデッサンしたものというではありませんか。なんともヘタウマな味のある図像たちです(写真参照)。これは元がそうなのか、バルトルシャイティスの描き方がそうなのか。おそらく石に彫るという制約から精密さよりも大胆さということになるのでしょう。古拙(アルカイック)の美というものでしょうか。図版は全部で788もありました。

この本の内容を簡単にご紹介しますと、シャイティスが文中告白しているのと、訳者のあとがきにまとめられているように、ロマネスクの彫刻を年代や場所、主題を抜きに並列し、トランプ遊びのようにして、共通の装飾的秩序を発見し、考究したものです。装飾パターン別に、「唐草模様」、「ハート型パルメット(葉)」「ハート形パルメットを並列したX形モチーフ」、さらにはタンパン彫刻に見られる幾何学性について、数多くの例証を引きながら解説しています。そして装飾パターンがリードして、動物たちが変形され合体し、人間の寸法のバランスが歪められる様、そして一定の構図の中に主題の多様性が封じ込められていることを実証しています。

なぜ唐草模様か、なぜハート形パルメットなのか、という図柄の前提に触れられていないのが気になりましたが、これはシャイティスが別に『シュメール美術とロマネスク美術』という本でロマネスク美術の起源について書いているそうなので、そちらに書かれていることなんでしょう。
グロテスク模様との親近性を感じます(というよりそのものと思います)が、それにもまったく触れられていないしそういう言葉遣いがまったく出てこないのは、なにかあるのでしょうか。美術史の専門家の方にいちど尋ねてみたいと思います。

読んだ順番は、馬杉宗夫氏の二著が先でしたが、印象が消し飛んでしまうぐらいです。逆に言えば、馬杉氏の著作の方がとても分かりやすく読みやすかったんですが。

『黒い聖母と悪魔の謎』は図像学の最高に面白い部分だと思います。以前から興味があった黒いマリア、ガーゴイル、一角獣タピストリーなどについて、図像学の成果を援用しながら、分かり易く解説してくれています。これまで興味がなかった(というより知らなかった)目隠しされた女性像、葉人間、髭を引っ張り合う老人や、悪魔像の誕生など、新たなテーマも発見できました。

『ロマネスクの旅』は『黒い聖母と悪魔の謎』に比べると、概説書的一般的な性格で、旅行に行く際には便利な本です。