marcel béalu『PASSAGE DE LA BÊTE』(マルセル・ベアリュ『獣道』)


marcel béalu『PASSAGE DE LA BÊTE』(pierre belfond 1969年)


 続いて、マルセル・ベアリュ。今回は、あまり気持ちのいい読書ではありませんでした。冒頭しばらくは落ち着いた筆致で、たまに洗練された表現が出てきて期待を抱きましたが、途中から一転、夫婦間の揉め事が事細かに出て来て、それが最後までぐだぐだ続いてげんなりしてしまいました。ミステリー的な要素も、幻想的な要素もありません。ポルノ的な味わいがあるのみ。これまで読んだベアリュのなかでは、もっとも魅力のない作品です。

 一言で言えば、同性愛の妻の不倫に悩まされる男の話。三分の二までが三人称の物語、最後の三分の一は男の日記で、男の側からの不満を綴っています。簡単にまとめますと、

主人公の男は54歳で、若い美人妻と7歳の娘がいて、フランス北西の海岸の村に住んでいる。男が仕事で出ているあいだ、娘と散歩していた妻は、海岸で馬の群を連れている女(初めは男と勘違いする)と出会う。その女は母が死産、父親もなくなって莫大な遺産を相続して、女の召使と館で暮らしていた。幼い頃女中に女同士の性愛を教えられた同性愛者だった。

妻はその女と頻繁に会うようになる。男は、妻の退屈しのぎの相手ができたと喜んでいたが、妻は酒を飲まされ誘惑され、同性愛に引きずり込まれ、夜も出て行くようになった。ある日、男が館の近くを歩いていると、妻がその女と手をつないで歩いており、別れ際にキスするのを目撃する。家で妻の帰りを待ち、男は初めて妻に暴力を振るう。

それ以来、男と妻の関係はぎくしゃくし、修復しようとイタリア旅行を企てるが一向に元に戻らない。妻は年末休みや夏休みに実家に帰ると称して、その女と旅行に出かけたりし、その嘘がばれる。女は妻と結婚したいと言い、洞窟内の怪しい儀式に連れて行く(この部分のみ怪奇グロテスク趣味がある)。どんどんエスカレートし、妻は精神錯乱を見せるようになり、精神科医に連れて行くが、医者は離婚を勧めるだけで、男は納得しない。男はそもそもの原因はあの女にあると、計画を練り、ついにある日、女のもとへ行き首を絞めて殺してしまう。車で死体を運ぼうとしたところ妻に見つかってしまった。妻は女の死を知ると逆上して、男が車から離れたすきに、車を運転し断崖から落ちていく。

 夫婦間の諍い、罵り合いの会話のありさま、爪で引っ掻いたり、電話器で頭を殴ったりという妻の暴力が、そこまで書くかというぐらい克明に描かれているのが特徴です。妻は逆上すると、手が付けられなくなり、矛盾したことを言い散らし、娘の前でも平気で夫を罵倒し殴りつけます。

 男の日記は、女の殺人を計画した段階から書き始められ、将来裁判にかけられた場合に、自分の悲惨な立場を裁判官や陪審員に印象付けようという目的で書かれたもの。自己を正当化しようとしていますが同情はできません。妄想が綴られ、また男女の愛に関する箴言のようなフレーズがちりばめられています。ベアリュは、二度の離婚をしているようですが、この小説には、彼自身の体験が盛り込まれているような気がします。