シベリウスの小品名曲

 昨年末ごろから、シベリウスの小品をたまに聴いています。『シベリウス:きわめつきの小品集』というCDで、とくに「聖歌(喜べ、わが魂よ)」と「献身(わが真なる心より)」の2曲が心にしみます。ずっと以前に、北欧小品名曲集のヴァイオリン篇、チェロ篇の2枚をよく聴いていた時があり、この2曲も収められていますが、その頃は、メリカントとか、メラルティン、ヤルネフェルトの方に気を取られてあまり印象に残ってませんでした。

シベリウス『きわめつきの小品集』(フィンランディア WPCS-6219)
(演奏者は多数につき省略)。
 「聖歌」https://youtu.be/fqEn18KQrdcと「献身」https://youtu.be/qMG2hH04SX0の2曲は同じ雰囲気の曲で、ブルッフの「コル・ニドライ」を思わせる重々しい音楽。フィッツハーゲンの宗教的無言歌「諦念」やサン・サーンスの「祈り」にも少し似た沈痛で聖なる響きがあります。2曲ともに音階を少しずつ上げていく技法があり、とくに「聖歌」の開始2分ぐらいのところは、エルガーのチェロ協奏曲第1楽章の高鳴りと感じがよく似ています。

 ヴァイオリン曲では、フィンランドにもジプシー・ヴァイオリンがあるということを、小野寺誠の『白夜のヴァイオリン弾き』で教えられましたが、そうしたジプシー風のスペイン的情熱と北欧的悲哀が混じった「マズルカhttps://youtu.be/iOXE-ukaiJ4や、「ユモレスク」、「子守歌」が印象に残りました。

 チェロ曲では、「ロマンス」https://youtu.be/qzy-CIUKfSo、「エレジー」、「悲しきワルツ」、いずれもどこかしら悲しみが感じられます。

 オーケストラ曲では、舞踏会の情景とともに、穏やかで古き良きヨーロッパが眼前に広がるような気がする「ロマンティックなワルツ」、「聖歌」「献身」の曲想に似ているが素朴な「弦楽のための即興曲」。

 ピアノ曲では、単調な和音の響きの進行のうちに、どことなしの悲しみ、淋しさが表現されていて、どうしてこれが牧歌なのかと思ってしまう「牧歌」と、やはり寂しさと悲しみの入り交じったような「樅の木」https://youtu.be/NtTrOadtMJU、典雅な響きのある「ロマンス」が素敵です。


 シベリウスの曲ばかり、「フィンランディア」やピアノ曲チェロソナタ形式にアレンジしているCDも最近買いましたので、その中の「樅の木」https://youtu.be/tU-2WERV1_Qと比較してみます。

『SIBELIUS Original Works and Arrangements for Cell and Piano』(NAXOS 8.570797)
Jussi Makkonen(Vc)、Rait Karm(Pf)

 シベリウスが、1890年頃ウィーン音楽院でロベルト・フックスの作曲法の授業に出ていたと言います。マーラーやヴォルフ、ハンス・ロット、ツェムリンスキーも学んだ先生で、彼らと作風が少し似ているのもそのせいかもしれません。シベリウスは1965年生まれ、ロットが1958年、マーラーとヴォルフが1960年、ツェムリンスキーが1871年生まれと、少しずれているので、一緒に授業に出たという可能性は低そうです。ネットで見ると、マーラーシベリウスは1905年頃に出会っています。


 ついでに、以前聴いていた北欧の小品名曲集にも触れておきます。
  
『Violin Favourites』(FINLANDIA 3984-24527-2)
『Celo Favourites』(FINLANDIA 3984-24528-2)
(演奏者多数につき省略)。
 ヴァイオリン編では、Merikantoの「Valse lente」https://youtu.be/HF2aCejSgH4、Melartinの「Berceuse」、Raitioの「Elegia」、チェロ編では、Järnefeltの「Berceuse」https://youtu.be/3mXtKjU9ezU、清冽な抒情と哀愁のあるSohlströmの「Elegie」https://youtu.be/E9QOWOzchJY、Mielckの「Romance」が秀逸。全部引用したい名曲ですが、あまり引用ばかりしていると叱られるので、3曲程度に留めておきます。

 前にも書いたことがあるように思いますが、北欧の曲全体に通じて言えることは、リズムが単純で、日本の昔の唱歌に似ているように思います。南欧的な情熱、男っぽさとか、うねるようなリズムとか。性的な蠱惑とかがあまりかんじられません。素朴で、素直で寂しい感じ。たまたまそういう曲を集めただけで、北欧にも南欧にあるような熱っぽい曲はあるのかも知れませんが。イギリスの曲にも通じるところがあるように思います。


 最近、あまりコンサートへ出かけることもなく、情報を探ったりすることもなくなったので、間違ってるかも知れませんが、日本のクラシック界は、交響曲中心の大曲主義に陥っているように思います。大ホールで、2時間も大曲を聞かせるのではなく、中・小ホールで、洒落た小品を1時間程度で紹介するのも、クラシックファンを増やすひとつの方法ではないでしょうか。クラシックの小品名曲は山ほどあり、そのなかには人知れず埋もれているもの多いと思います。もっと愛でられるべきものでは。