ビルスマのフランショーム

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フランショーム/ショパン『19世紀チェロ作品集』(SONY SRCR9515)
ビルスマ(チェロ)、オルキス(フォルテピアノ)、ラルキブッデリ&スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ
アントニオ・ストラディヴァリ作の銘器による演奏


 2年ほど前、梅田の中古CD店で何気なく手に取ったCD。ビルスマはひと頃、ヴィヴァルディのチェロソナタをよく聴いていました。昨年亡くなられたということもあって、11月ごろから、ずっとこのCDを聴いています。9曲が収められていますが、全体を通して弦が中心なので、けたたましくなく、穏やかな響きなのが気に入っています。ストラディヴァリウスの名器だからか、ガット弦を使っているからか、チェロが、とくに高音部で、苦し気に語りかけるかのような声色になるのが心に沁みます。

 フランショームという人は、19世紀フランスのチェリストであり作曲家で、メンデルスゾーンショパンと親交を結び、とくにショパンとは家族ぐるみのお付き合いだったようで、ショパンが彼のためにチェロ協奏曲を作曲したということです。先日テレビで、ショパンにはヴァイオリン協奏曲がないのにチェロ協奏曲があるのが不思議という話が出ていましたが、フランショームの存在が大きかったわけです。

 1曲目「オーヴェルニュの歌による変奏曲」の序奏が終わってすぐ、30秒あたりから奏でられる囁くようなチェロの高音部にさっそく惹きつけられます(https://www.youtube.com/watch?v=jCgMWxmMqO4)。その後も気だるげな響きあり、軽快なパッセージあり、いくつかの変奏が次々と展開しますが、6番目か7番目、ちょうど8分40秒あたりからの演奏は、ゆったりとしつつ高揚感があってとくに好きな部分です(https://www.youtube.com/watch?v=RgqaRhNZCPY)。

 このCD中もっとも気に入っているのは、3曲目の「ノクターン」(ト調)で、ショパンの二つの「ノクターン」(作品15-1と37-1)を合わせて編曲したものだそうですが、うっとりと心が落ち着くメロディで、どこか少し悲しみを帯び、諦観さえ感じられます(https://www.youtube.com/watch?v=h0rvJvLiUaM)。私の好みはやはりゆったりとした曲のようで、もうひとつの「ノクターン」(7曲目、変イ長調、作品15-3)も、北欧の小品にあるような(私の思い込みかもしれません)単純なメロディと繰り返しの多い構成ですが、愛すべき小品です。

 「カプリス」というタイトルの曲が3つありますが、古楽的な雰囲気の中で荘重に始まる2曲目(ハ長調、作品7-7)、葬送の気分さえ漂う気がする6曲目(イ短調、作品7-4)、グロテスクな様相の8曲目(ホ短調、作品7-2)というぐあいに、いずれもカプリスというタイトルの割には重々しい印象。4曲目の「グランド・ヴァルス」がいちばん変化に富み、華やかで、バランスよくまとまっています。5曲目の「『悪魔のロベール』の主題に基づくピアノとチェロのための協奏的大二重奏曲」は、ショパンとの合作ということだけあって、ショパン色が濃厚で、うまく表現できませんが、浪漫派的な暑苦しさと軽快さ、華麗さが同居している感じです。9曲目「ロシアの歌による変奏曲第2番」は、冒頭ブルックナーを思わせる響きがあったり(https://www.youtube.com/watch?v=XRdSVSnMVws)、ジプシー的な節回しのところもある不思議な曲です。

 このCDに収められている曲はいずれもレベルが高く、がっかりする曲が一つもありません。フランショームの曲は、ロマン派的な香りがする中に、古典主義的なところもあり、バッハ以前の古楽の響きもどこかにあるような変幻自在な表情を持っています。ネット情報によると、チェロ協奏曲をはじめ55曲もチェロの曲を作曲したと書いてありますから、他の曲もぜひ聴いてみたいと思っています。