二階武宏の木口木版画

  先日、地元のケーブルテレビを見ていたら、私好みの木口木版画の紹介があったので、覗いてきました。これは、「学園前アートフェスタ2019」という催しの一つとして展示されていたものです。この催しは、奈良の学園前駅周辺の自治連合会と学校(帝塚山学園)、美術館(大和文華館、中野美術館)、企業(淺沼組)が集まって主催となり、多くの地元企業商店が協賛して行われているもので、今年で5年目だそうです。若手芸術家を応援するというのが目的で、1週間の間、12か所の会場に20名の作家の作品が展示されているとのことでした。

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 私は時間がなかったので、浅沼記念館だけしか見ませんでしたが、あとでパンフレットを見ると、面白そうな作品もたくさん出展されていたようで、コンサートなど関連イベントもあり、地域の文化活動として意義あることなので、来年は少し時間を取って回ってみようかと思ったりしています。で、お目当ての二階武宏の木口木版画ですが、11点ほどの版画とその彫りの入った版木が展示されていました。

 

 私は版画も好きで、若い頃に銅版画教室にも通ったことがありますが、木口木版画は銅版画に近いテイストがあるので、とくに好んでいます。18世紀にイギリスで誕生した技法で、主に書物の挿絵として印刷に便利ということから重宝されたもののようで、後にフランスにも伝わりました。有名なところでは、ウィリアム・ブレイク、バーン=ジョーンズも作っていますし、それにギュスターヴ・ドレの大量の挿絵があります。私は、神話的世界を画いたエドワード・カルバートや『トリルビー』というゴシック小説も書いているジョージ・デュ・モーリアの作品が好きです。

 

 日本では、先日買った『日本の木口木版画―明治から今日まで』(板橋区立美術館発行)によると、明治10年ごろから新聞に活用され、合田清という人がフランスから帰って一時隆盛を極めたようですが、明治30年代になると印刷技術の発展で廃れていったとのことです。その後長谷川潔の一部の作品(堀口大學譯詩集『月下の一群』など)に見られる程度となりましたが、戦後日和崎尊夫が復活させ、その影響下で柄澤齊らが出てきたということです。このカタログで言えば、日和崎尊夫、柄澤齊小林敬生、栗田政裕の作品に惹かれました。

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 二階武宏の作風は、このカタログのなかでは小林敬生、三塩英春のテイストに近いものがありますが、現代の幻想的イラストに通じるようなところがあり、淵源を辿れば、デユーラー、ピラネージまで行かなくとも、マックス・エルンストやウィーン幻想派のエルンスト・フックス、あるいはフランス幻想派のディマジオ、『エイリアン』のH・R・ギーガーなどとの類縁関係が感じられます。雲か海がうねり、樹々の細い枝が絡み合うような模様を背景に、奇怪な人造的な人物や大貌、また解体された馬の模型のようなものが中心に座し、全体としてはSF的な架空世界が描かれています。単色の暗い絵柄のなかに光が出現するように見えるのはいったいどんな技法でしょうか。

 

 係員の人に写真を撮っていいかと尋ねると、どうぞどうぞご自由に、できればSNSで宣伝していただけたら、とお勧めいただいたので、蛍光灯が映りこんでしまった下手な写真ですが、何点かアップしておきます。タイトルは控えてこなかったので、現物だけご覧ください。

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