:遊びの詩となぞなぞの本二冊

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谷川俊太郎編『遊びの詩』(筑摩書房 1982年)
福音館書店編集部編『なぞなぞの本』(福音館書店 1997年)

                                   
 読んだ順番です。『遊びの詩』の解説で、谷川俊太郎が「なぞとかことわざはことばのはたらきとして、詩と兄弟みたいなもの」(p140)と書いているように、なぞなぞも遊びの詩の一種と考えられるということで並べてみました。前者は「詩のおくりもの」という全7巻のシリーズの一冊。後者は「日曜日文庫」のなかの一冊。


 『遊びの詩』は、数え歌や手毬唄からことば遊びの詩まで各種を集めたもので、編者の谷川俊太郎がそれぞれの詩について簡潔に的を射た解説をしています。その冒頭で、遊びの詩を大きく4つに分類しています。一つは、遊びを主題にした詩、遊びについての詩。二つ目は、広い意味でのわらべうた、詩を声に出しながら遊ぶ詩。三番目は、詩自体がことばで遊んでいる、いわゆることば遊びの詩。なぞなぞはこの範疇に入ると思われます。四番目がナンセンス詩。私はやはりナンセンス詩にとても惹かれます。

 面白かったのは、一部引用しますと、「このがかはかのかおをかくがかか がのかおをかくがかかきがかりだ」「しかもかもしかもしかだが しかしあしかはたしかしかではない」(p43)の「舌もじり」(郡山半次郎)、「はひふへほ ラッパに むちゅうで/ぱぴぷぺぽ ぱぴぷぺぽ//ぱぴぷぺぽ ぶしょうひげ はやし/ばびぶべぼ ばびぶべぼ//ばびぶべぼ はだかに されて/はひふへほ はひふへほ」(p60)の「はひふへほは」(まど・みちお)。また、全体を読まないと魅力が分からないので引用しませんが、巧妙なことば遊びを仕組みかつ美しいイメージの「キラキラヒカル」(入沢康夫)、とぼけた感じが意味不明の世界を作る「ふと」(藤富保男)、ジャズの即興を思わせる言葉の機関銃のような凄みの中に聞き慣れた擬音語が混じって面白い「バブリング創世記」(筒井康隆)がなかなかのものでした。

 「ごびらっふの独白」(草野心平)がタモリハナモゲラ語の元祖と紹介されていました。私も高校の頃に、まったく知らずにハナモゲラ詩を作ったことがありますが(1967年頃?)、草野心平が初めだったんですね(1948年作)。世界を見れば、ダダ運動の一種イジドール・イズーの「レトリスム」が最初かも知れません(1947年)。

 この本ではハナモゲラの例が他にも「バブリング創世記」(筒井康隆)、「口辺筋肉感覚による抒情的作品抄」(鈴木志郎康)に見られました。中村誠一の『サックス吹き男爵の冒険』にもハナモゲラ小説があったと記憶しています。本はもう所持してませんが、昔(1982年)の読書ノートを見てみると、「哲人28号」のなかの「さべらボッチは、フラバケまかせぬな」という言葉を引用しています。谷川俊太郎が解説で、ハナモゲラ語について「意味が見え隠れしているところがまたおもしろさになっている」と指摘しているのはさすがです。


 『なぞなぞの本』は、世界中と日本から集めた500以上ものなぞなぞに加え、なぞがテーマになっているイギリスのバラッドとフランスの昔話を加えたものです。なかでは、音、影、光、ことばなど抽象的なものに関するなぞなぞが面白く感じられました。例をあげると、「水の上をとおりすぎても/影がうつらない」(p15)→「鐘の音」、「日なたぼっこしてても/日にあたれない人 だあれ」(p43)→「影」、「いりようなときにははきだして/いらないときのみこむもの」(p35)→「ことば」。また、なぞなぞによく見られる特徴で、魅力となっているのは、矛盾した表現です(「自分のものなのに/他人がいちばんつかうもの」p47→「名前」)。さらにそれが対になっているものもあります(「死んだままにしておけば長生きするのに/生かしておくとすぐに死んでしまう」p25→「ろうそく」)。

 なぜその答えなのか分からないものもたくさんありました。風俗習慣が過去のものになっていて分からないものも。解説か註釈が必要ではと思います。なぞなぞが難しい訳は、答えが先にあって、そこから問いを考えているからでしょう。答えからはすぐ類推できますが、その逆はスムースには辿れないものです。これは推理小説の作り方に似たようなことがあるような気がします。

 この本の作りの感想としては、子ども向きにしては不親切。その理由は、上記のように大人でも分からないものがあることと量が多すぎること。また、イギリスのバラッドは余計です。


 面白かったなぞなぞは、ほかに下記のとおり。→の先の回答を見ずに挑戦してみてください。
みんながこわがっているのに/まいにちすこしずつ/近づいてくるもの(フィンランド
→死/p19
うまれたけれども/うまれてない/うまれてないけれども/やっぱりうまれているもの(フィリッピン
→たまご/p23
名前をいっただけでも/こわれてしまうもの(イギリス)
→沈黙/p32
赤い帽子をかぶると/だんだん背がひくくなるもの(新潟)
→ろうそく/p39
つくった人はだまってる/もってる人は知りやせぬ/知ってる人はほしがらぬ(ドイツ)
→にせ金/p47
つくった人はつかわない/もってく人はとっとかない/買った人には用がない/もらった人はごぞんじない(ドイツ)
→棺おけ/p47
キリストさまはもってない/ナポレオンはもっている/女はだれももってない(イギリス)
→妻/p48
ランプを明るくさせるのは/なんでしょう(フィリッピン
→暗闇/p57
柱時計が十三なった/いまはいったいなんのとき(フランス)
→修繕のとき/p87
小さくなればなるほど/こわくなるもの(イギリス)
→橋/p90
三本足の上の二本足/一本の足が二本足をけっとばし/三本足がころがった/二本足は三本足で/四本足をぶったたく(イギリス)
→三本足のこしかけにすわって乳しぼりをしている男を、牛がけっとばし、男がこしかけで牛をぶつ/p115
大きな劇場/二階にまどふたつ/階下(した)にまどふたつ/大きなドアをあけると/赤い舞台の上に/白い登場人物がせいぞろい(イギリス)
→顔/p162