:FRANZ ELLENS『LA PENDULE EMPIRE suivi de trois contes exemplaires』(フランツ・エランス『帝政様式の置時計と3つの教訓的短篇』)


FRANZ ELLENS『LA PENDULE EMPIRE suivi de trois contes exemplaires』(L’AMITÉ PAR LE LIVRE 1964年)


 続いて、またフランツ・エランスの短篇集。「教訓的」という訳がいいかどうか不安ですが、いずれも悲恋、悲劇で終わる作品です。相変わらず、文章の読みやすい部分と、難しい部分があり、難しいところは拘泥せずに読み飛ばして進みました。

 この本には、これまで読んだエランス作品とは違って、直接的な怪異や幻想はまったく出てきません。それに近いものを感じさせられた作品は、冒頭に置かれた「La Pendule Empire」で、女性の彫像のある置時計など骨董装飾品の描写に見られる夢幻的神話的雰囲気や、奇矯な登場人物、骨董店の店内の様子など、わくわくしてしまうものがありました。さらに、この作品には余裕をもって怪盗を賛美する趣きがあり、また滑稽小説的な場面もいくつかあったので、主人公が蒐集した高価な骨董品を奪われたうえ、恋にも破れるという悲劇に終わるとはいえ、楽しめながら読めました。

 他の3篇は、それに反して、いずれもシリアスさが貫かれ救いのない絶望のうちに物語が閉じます。3年一緒に過ごした恋人から別れの手紙をもらったり、事故で顔が滅茶苦茶になったあげく捨てられ自殺したり、若妻と駆け落ちしようと意を決して訪れたらすでに夫が感づいて無理やり引っ越した後だったり。これらの作品に共通する特徴は、前の『LES MARÉES DE L’ESCAUT(エスコー川の潮)』でも書きましたが、人物の会話や独白が豊かできめ細やかで、それらを通して、主人公の内面のドラマチックな推移が鮮やかに浮き出ているところです。

 ばらばらに見える4つの短篇ですが、最後の一篇にまた帝政様式の置時計や骨董店が出てくるところに全体の本としてのまとまりが感じられる仕掛けになっています。

 Michel Frérotという人の銅板による挿画が大4点、小10点添えられています。大はいずれもページ全面に描いた顔の中に抽象的な図柄を落とし込んだもので、小は矩形や円を活かした愛らしいデッサン。見本をご紹介しておきます。


 各篇の概要を簡単に(ネタバレ注意)。                〇La Pendule Empire帝政様式の置時計)
 仕事一筋で芸術の美を理解しない保険業の男が、ある男の手に導かれて骨董蒐集の道にはまる。がその男は泥棒団の親玉で、保険業の男を誑かせて骨董を集めさせ、それをまとめて盗むという大胆な作戦に出ていたのだ。保険業の男主催のお披露目パーティの席で、招待者(実は泥棒団のメンバー)が軽妙な挨拶をするたびに、ひとつずつ蒐集品を持ち帰るという、同じパターンが繰り返されるところが、挿話的な要素もあり面白い。


Clara Spane(クララ・スパン)
 離婚後、気分転換のため訪れていた北方の村で、南方系と見える美しい女性と出会う。彼女は年下のひ弱な若者からつきまとわれており母性愛的な感情から付き合っていた。まもなく二人でニース郊外に住み幸せなひとときを過ごすが、女性が急にパリに行くと言い出す。新聞で若者が発砲事件を起こしたことを知ったからだ。その後幸せな生活に戻るが、3年後、刑期を終え出所する若者に会いに行った彼女から別れの手紙が届く。運命には逆らえない、若者とともに生きると。


La Mort dans l’Ame(魂の死)
 大会社のタイプライター速記嬢をしていた娘が、部長の車に同乗していて事故に遭い、ひどい顔になりびっこを引くようになってしまった。裁判が長引くなか、腫れ物に触るように気遣う両親とますます我がままになる娘。幸せな家庭が一変する情景が事細かに語られる。娘は部長と関係があり事故後責任を取るよう結婚を迫るが冷たく突き放される。娘は部長に復讐しようとして果たせず、最後は自殺してしまう。どうしようもない悲劇。


〇Le Rendez-vous dans une Eglise(教会での密会)
 小さな町で祖父母の家に下宿している大学生が、骨董店の若夫人を見初める。彼女には年の離れた嫉妬深い夫がいて、彼女を閉じ込めるためにその骨董店の店番をさせているのだった。夫と交替する昼休みの時間に教会での密会を続けるが、大学生が復活祭の休暇で実家へ戻り、金を集めて彼女と一緒に駆け落ちしようと戻ると、骨董店はもぬけの殻になっていた。若い二人の愛情の交換がみずみずしく描かれた悲恋物語