:郡司利男『ことば遊び12講』


郡司利男『ことば遊び12講』(大修館書店 1984年)


 このところ何かと用事ができて、思うように本を読むことができません。5月になれば少しは余裕ができるかと。とりあえずほそぼそと一冊ずつ取りあげていきたいと思います。フランス語の言葉遊びの本を読んだ次は、英語の言葉遊びの本。

 著者は英語の言葉遊びについて、すでに何冊か書いていて、その補遺のような位置づけ、かつ雑誌での連載なので、英語の言葉遊びの全容を体系的に書くというよりは、12講の毎回を思いつきでテーマを決めて書いているという感じです。脈絡に欠けているうえに、書いている途中に脱線して別の話になることもしばしば。ギロを読んだ後では、どうしても見劣りしてしまいます。


 全体の印象は小話集とも言えるもので、引用されている言葉遊びの例は豊富。アダムとイヴ、シーザーやシェークスピアにまつわる冗談、またエジソンやフランクリンの名言がアレンジされた冗談が多いことを知りました。言葉遊びの技巧がいくつか紹介されていましたので、列挙しておきます。
metanalysis(異分析):an ice manとa nice manのように区切りを活かしたしゃれ。
Alphanumeries(アルファベット数遊び):I 8 it.で8をateに読みかえるしゃれ。
inflational language(インフレことば):one was a wonder, the other a Tudorというふうに数のところを一つ増しにする遊び。
Wellerism:ディケンズの作品に登場する人物の名前に由来。格言やことわざを用いたしゃれ。格言の一部を同音異義の言葉に入れ替えたりして遊ぶ。
Tom Swifties:これも作中人物に由来する。発言内容と「〜のように言った」という副詞(ように)との関係を楽しむしゃれ。 “Dear, you’ve lost your birth control pills,” said Tom pregnantly.「おまえ、ピルをなくしちゃったじゃないか」と、トムが重大な結果を孕むことを口にした。
Differential Riddle(違いのなぞ):いわゆるなぞなぞで、違いを探す。(なぞ)What’s the difference between here and there? (答)The letter T.
Portmanteau Word(かばん語):ルイス・キャロルが始めた新造語。chuckle(くつくつ笑う)とsnort(大声で笑う)からchortle(得意げに言う)を生み出すというふうに。
発明の言葉遊び:なぞなぞとしゃれを合わせた問答。(なぞ)Who invented the mini skirt?(答)Seymore legg.(See more legを人名に見立てている)。
bull(矛盾のしゃれ): 言説の中に矛盾が含まれているが、それをまじめに語る面白さ。A dog jumped across a well in two jump.犬が二つ跳びで井戸を跳び越えた。

 他にも、人名を同音で別の文脈にすり替える「The You-Tell-‘Em(言っておやりよ)」や「ノック遊び」、ラテン語らしくみせた英語のしゃれ「マカロニラテン」、日本の「たぬき言葉」にあたる「lipogram(欠字文、字忌み文)」、無知によって言葉が置き換えられる「マラプロピズム」、別の言葉と初頭音が入れ替わるとちりの一種「スプーネリズム」、「パラドックス」、「アナクロニズム」、「早口言葉」、「アナグラム」、「回文(Palindrome)」など。


 なかで面白かった具体作は、
①ナンセンスのしゃれ。
As I was going up the stair,/ I met a man who wasn’t there./ He wasn’t there again today―/ I wish, I wish he’d stay away! 階段をのぼっていたら/ そこにいない人に出会った/ その男は今日もそこにはいなかった/ よそにいってくれないかなァ!/p225

②微細な小宇宙を描いた日本の歌。
蚊のこぼす涙に浮かぶ浮島の/ 浜の真砂の千々に砕けて/p264
芥子粒の中くりあけて堂建てて/ 一ト間かこふて手習をせん/p264

③bullの例二つ
ビアス悪魔の辞典』のなかの「食屍鬼」の項の文章。食屍鬼の恐ろしさを語る中で、「he saw it in more than one place at a time.しかも、彼はその一匹を一度に二か所以上で目にしている」という言葉。
「If you marry at all, marry last year.どうしても結婚するなら、昨年結婚せよ」/p309。→これは唐十郎の名セリフ「おとといおいで」を思わせる。

④Tongue Twister(早口言葉)。「She sells sea-shells and shell-fish at the sea-shore…(長いので略)」/p145

⑤異分析を用いての笑話。「Once upon a time there were two skunks named In and Out. When Out was out, In would be in. One day Out was in and In was out…(略)」/p236