:フランスのことわざ本二冊

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吉岡正敞編『フランス語ことわざ集』(駿河台出版社 1976年)
小林龍雄訳註『フランスのことわざ』(大学書林 1978年)


 前回に続きフランスのことわざ本。『フランス語ことわざ集』は収録数は1207と多いですが、同じ諺で少し形を変えたものを別の諺として列挙しているので、それをカウントしなければ実際は半分ぐらいになるでしょう。『フランスのことわざ』は565のことわざを項目として掲載していますが、ほとんどが『フランス語ことわざ集』と重複しており、単独のものは90しかありませんでした。

 いずれもアルファベット順にことわざを並べていますが、それぞれの編集上の特徴としては、『フランス語ことわざ集』は、まず直訳を示し、次に簡単な説明、最後に関連した日本のことわざを載せるという丁寧な作りになっているのに対し、『フランスのことわざ』は簡単な訳(それもいきなり意訳)があるだけなので、分かりにくい。その後に〔文法〕として、初歩的な文法の説明がありますが、冠詞省略や不規則動詞の活用など、同じような説明ばかりでうんざりしてしまいました。

 『フランス語ことわざ集』では、前回、私なりに考えたフランス語ことわざに見られる特徴が、さらに丁寧に細かく解説されていました。
1)冠詞、動詞、先行詞の省略による簡潔性。例えば先行詞ではcelui quiのceluiを省略するが、語順の倒置を伴うことが多いこと。
2)頭韻、脚韻、くり返し、対句に見られる韻文性。
3)隠喩による表現。これはいかにもことわざらしい表現で、直接的に明示するのでは格言になってしまう。
4)教訓的性格。この表し方は、「教訓的ニュアンスを帯びた平叙文」→「Il vaut mieux…(した方がいい)」→「Il faut…(ねばならぬ)」と徐々に表現が強くなる。たしかにIl fautやIl ne fautで始まることわざの多さに驚きました。
5)相対立し矛盾することわざが存在すること。なぜならことわざは人生の多面的な様相を指摘しているから。


 いくつか気になったことわざを種類別にピックアップしてみます。一つを除いてすべて『フランス語ことわざ集』のものです。まず、 言い回しが似ているのがいくつかありました。
A frippon, frippon et demi.詐欺師には、一人半の詐欺師。/p4、 A malin, malin et demi.悪党には、一人半の悪党。/p6、 A voleur, voleur et demi.盗人には、一人半の盗人。/p14
Ce qui est fait est fait.為されたことは為されたこと。/ Ce qui est passé est passé.過ぎたことは過ぎたこと。/ Ce qui est promis est promis約束したことは約束したこと。/p19
Telle vie, telle fin.この生にして、この末路あり。/ Tel maître, tel valet.この主人にして、この召使あり。/ Tel père, tel fils.この父にして、この息子あり。/p146


 口調のよいもの。
Alors comme alors.その時はその時に応じて、臨機応変。/p6
Bien dire fait rire, bien faire fait taire.うまいこと言えば笑わせる、うまいことを為せばうならせる。/p14
Fais ce que tu peux, si tu ne peux faire ce que tu veux.したいことができぬなら、できることをやれ。/p36
Qui se ressemble s’assemble.類は友を呼ぶ。/p138
Qui ne prend le bien quand il peut ne le trouve plus quand il veut.機会は二遍とこない。/ 『フランスのことわざ』p66


 滑稽な想像力が感じられるものとして。
Faites du bien à un vilain, il vous fera caca dans la main.悪党に良いことをしてやっても、ウンコを握らせられるだけ。/p36
L’argent n’a pas d’odeur.金ににおいなし。/p79
On ne saurait tondre un oeuf.卵の毛を刈ることはできぬ。/p115
On tombe toujours du côté où l’on penche.人は常に体の傾く方に倒れる。/p118


 酒が出てくる成句として。
Il y a loin de la coupe aux lèvres.盃から唇までの距離は遠い。/p66→これは、何が起こるか分からないということ。
La verité est dans le vin.酒の中に真実あり。/p81


 句の意味するところが含蓄があっていいと思ったもの。
De l’abondance du coeur la bouche parle.心あふれれば口自ら語る。/p31
Il faut faire la part de l’imprévu.予期せぬことを計算に入れねばならぬ。予期せぬことは必ず起こるもの。/p42
Il faut qu’un menteur ait bonne mémoire.嘘つきは記憶力が良くなければならぬ。/p45
Il n’y a plus d’huile dans la lampe.ランプにはもう油がない。体の衰えとか老年などでもうダメになった人について言う。/p61
Le coeur a ses raisons que la raison ne connaît pas.心情(こころ)には理性が知らないそれなりの理由がある。/p83
Mieux vaut être fou avec tout le monde que sage tout seul.ただ一人賢者でいるより皆といっしょに馬鹿でいた方がよし。/p104→戦時中の一億総白痴を思い出す。
Mieux vaut tenir que courir.追い求めるよりも持っていた方がよい。/p105→古本蒐集者の家訓としたい。
Que votre main gauche ignore ce que fait votre droite.左手には右手のすることを知らせずにおくべし。/p130→謎めいた一句