:いこま国際音楽祭


 今年も、いこま国際音楽祭に行ってきました。今年のテーマは「スラブとラテンの熱い風」。3つのコンサートと、マスタークラス、3つの学校訪問公演があったようですが、私の行ったのはコンサートの真中の日「ガラ・コンサートPart2」で、演奏曲は下記のとおりでした。


ドビュッシー:6つの古代の墓碑銘
ファリャ:スペイン舞曲(クライスラー編)
ファリャ:7つのスペイン民謡より
橋本國彦:お六娘
ブラームス:4つの二重唱曲Op.28より
ブラームス:ジプシーの歌Op.103(独唱版)
―休憩―
B・スタルマン:マルタスタル
A・ピアソラ:天使の死
C・ガルデル:ポル・ウナ・カベサ、想い出の届く日
A・ピアソラ:アディオス・ノニーノ、オブリヴィオン、リベルタンゴ
O・ファレス:キサス・キサス・キサス
アンコール:ベサメ・ムーチョ


 前半と後半がまったく別のコンサートのようにテイストが違っていました。全般的に声楽が多かったんですが、同じ声楽でも後半はポピュラー系のノリに溢れていて、前半のリート風の大人しさを際立たせたようです。前半のアルト、バリトンの歌手も決して悪くはありませんでしたが気の毒な気がします。

 後半のポピュラー系のノリを生み出していたのは、ダニエラ・ヴェガというまだ若いソプラノ歌手で、ブラジル出身、現在ドイツでリートの勉強をするかたわら、オペラ、ミュージカルをはじめ、ポピュラー音楽のコンサートにも出演し、ダンスも踊る多彩な活動をしているようです。今回も、自らカホン(箱状の打楽器)に跨って叩きながら歌ったり、マラカスのようなリズム楽器(貝殻を重ねあわせたようなのを二つ擦り合わせる)を操りながら歌っていました。生来のエンターテイナーという印象を受けましたが、とくにガルデル「想い出の届く日」の途中で、舞台の前に一歩進み出て、自らの言葉で呼びかけるように話し歌う場面は、感情が溢れて、一瞬何事が起ったのかという劇的な効果がありました。

 ピアソラリベルタンゴ」のフィナーレ間近でも同様の歌い方があり、そのままヴァイオリン、チェロの一弾きとともに突然曲が終わりました。その終わり方のなんとかっこのよかったことか。万雷の拍手とブラボーが巻き起こりました。フランス音楽でも感じることですが、ラテン系の曲は終わり方が粋で洒落ています。

 いちばんよかった曲は、ニコラス・チュマチェンコ(Vn)、韓伽倻(Pf)によるスタルマン「マルタスタル」、ピアソラ「天使の死」。「マルタスタル」という曲は知りませんでしたが、どこかで聞いたことがある気がします。チュマチェンコはいこま国際音楽祭に企画者の韓伽倻とともに毎回出演している人で、昨年度はリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ、一昨年はドビュッシーのヴァイオリン・ソナタを弾いて、いずれもすばらしかった記憶が残っています。今回は、純クラシックの演奏から離れて、ポルタメントを多用した雰囲気のある演奏で、多彩な能力を感じさせられました。

 ピアソラの有名な3曲もよかったですが、ヴァシリー・ブィストロフという人が編曲したソプラノ版で、初めて聞いたこともあり、いつも弦楽器で聞き馴れているので若干戸惑いがありました。前半では、ファリャのスペイン舞曲が聴きごたえがあり、やはりチュマチェンコのヴァイオリンがすばらしい。生駒出身でまだ大学生の伊東裕も今回は脇役に徹していましたが、柔らかないい音で、タンゴの大人びた雰囲気を出していました。

 冒頭のドビュッシーはP・ルイス「ビリティスの歌」の朗読の伴奏用に書かれた曲らしいのですが、不覚にも疲れからうとうとしてしまい、遠くでピアノの響きが心地好く聞こえるなと思っているうちに終わっていました。残念。