:ドヴォルザーク「糸杉―弦楽四重奏による」


 最近ドヴォルザーク弦楽四重奏による「糸杉」をよく聴いています。穏やかな美しい曲で心が洗われるようです。
DVOŘÁK作曲Vlach Quartet Prague演奏『Works for String Quartet Cypresses』(NAXOS)

 この曲はドヴォルザークの番号のつけられた弦楽四重奏曲とは別で、若い頃に書いた歌曲を壮年になってから弦楽四重奏に書き換えたもので、2〜3分の短い曲が12集められています。弦楽四重奏曲としては珍しい形ではないでしょうか。

 他に思い当たるものとしては、ヴェルディのオペラ「ルイザ・ミラー」からムツィオという人が弦楽四重奏に8曲編曲したのと、プッチーニがオペラ「マノン・レスコー」にテーマを流用した「クリサンテミ(菊)」という弦楽四重奏の小曲がありますが、これらの曲もひと頃よく聴いてました。
VERDI/PUCCINI/MUZIO作曲HAGEN QUARTETT演奏『Werke für Streichquartett』(Grammophon)

 歌をもとにした弦楽四重奏曲というのは、弦の艶やかな響きが歌声のように伸びやかで、ややもすると厳つくリズムを刻みがちな弦楽だけの演奏が色彩豊かに感じられます。この「糸杉」の曲の感じも、メロディが優しく、歌うような流麗さがあり、軽い感じで、とても気に入っています。

 元の歌曲は、Gustav Pflegerという人のチェコ語の原詩に作曲したものだそうで、その詩の内容を知らないので何とも言えませんが、解説には、恋する若者の感情が込められているようなことが書かれていました。糸杉は墓場に植えられる樹だからでしょうか、少しさびしい印象もあります。

 どの曲も、懐かしさ、淋しさ、悲しみにあふれて、惹きつけるものがありますが、なかでも美しい曲は、
第1曲「私は甘いあこがれにひたることを知っている」の導入部の語りかけるような優しさ
第3曲「おまえのやさしい眼差しに魅せられて」の自然の風景が眼前に広がるような淋しい曲想
第4曲「おお、私たちの愛は幸せではない」では懐かしさがこみあげてきます。
第5曲「私はいとしいおまえの手紙に見入って」では喋り合っているような親しみやすいメロディ
第7曲「あの人の家のあたりをさまよい」のやるせないような悲しみ
第9曲「おお、ただひとりのいとしい人よ」はいちばん心に残る名曲、同じメロディの繰り返しで、揺りかごに揺られているような優しさを感じます。
最後の曲「私の歌がなぜはげしいか、おまえはたずねる」はタイトルどおり激しく終わっていますが、これは失恋の動揺でしょうか。

 
 ドヴォルザークの他の弦楽四重奏曲はまだ聴いたことがありませんのでぜひ聴いてみたいと思います。また「糸杉」の原曲の歌曲のほうもCDが出ているようなので、そのうち聴いてみようと思います。