:楠本憲吉『俳句入門』

                                   
楠本憲吉『俳句入門』(文春文庫 1987年)
                                   
 俳句論や俳句の手引書のようなものは、いくつか読みましたが、その都度何が書いてあったか忘れてしまっていて、いつも新鮮な気持ちで読むことになります。

 楠本憲吉は、ひと頃テレビなどで活躍されていた方でよく見かけました。この本は、俳句についてまったくの初心者が読むのにふさわしい入門書で、ゼロから懇切丁寧に説明してくれています。人名や俳句特有の言葉について各ページの終りに注釈がついているのも親切。例えば、「季題」や「芭蕉」までもが注釈されています。

 具体的に俳句を作るに際して参考になるように、句会の入り方や、句作の場所からはじまり、句の作り方、俳句の構造、そして代表的な俳句を取り上げてその味わいを解説しています。巻末には「ハンドブック」と称して、歳時記や推敲、添削の実例など具体的な句作のコツ、現代かなづかいのポイントなどがまとめられています。

 これまでも何かで読んではいたと思いますが、いくつか発見がありました。初歩的な感想でお恥ずかしいかぎりですが、そのひとつは、俳句の形では、十七字音という音数よりも、五音、七音、五音という三分節の組み合せが重要だと感じたこと(p112)、ふたつ目は季語についてで、季語は作者と読者の共同理解の場を生むための結び目の役割をしていて、季語は、他のことばよりは共同理解の結び目となりやすいので、俳句の中心に置かれているということ(p158)、三つ目は、実作のヒントとして、一句一動詞に抑えると、句がキチンとまとまり、散文化が防げること(p296)など。
                                   
 今回、あらためて写生句が俳句らしい特徴を発揮したものと理解でき、その手本として引用されている高浜虚子の句に新たな魅力を感じました。これまでは取り合せのシュールレアリスティックな句や、禅的な諧謔味のある句が好きだったのに、どうしたことでしょうか。

 たとえば、次のような句が印象に残っています。
遠山(とおやま)に日の当りたる枯野(かれの)かな 高浜虚子/p187
風が吹く仏(ほとけ)来(き)給(たま)うけはいあり 〃/p188
桐一葉(きりひとは)日当りながら落ちにけり 〃/p189
白牡丹(はくぼたん)というといえども紅(こう)ほのか 〃/p192
方丈(ほうじょう)の大庇(おおひさし)より春の蝶 高野素十/p192
流れ行く大根の葉の早さかな 高浜虚子/p193
白藤や揺りやみしかばうすみどり 芝不器男/p196
昃(ひかげ)れば春水の心あともどり 星野立子/p199
昼吸いし白光を吐き夕牡丹 山口青邨/p204
冬蜂の死に所なく歩きけり 村上鬼城/p204
ちるさくら海あおければ海へちる 高屋窓秋/p214
鮎の背に一抹の朱のあるごとし 原石鼎/p230
綿虫やそこは屍(かばね)の出で行く門 石田波郷/p260
練炭の十二黒洞つらぬけり 西東三鬼/p271
つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口誓子/p303