:ベルリオーズ「幻想交響曲」オルガン版を聴く、ほか

 先月末に、フランス南西部を旅してまいりましたが、トゥールーズでオルガン音楽祭に出くわし、プログラムの一つにベルリオーズ幻想交響曲」オルガン版という珍しいのがあったので、聴いてきました。場所はダルバード教会というところ。

 プログラムによるとピアノ版があってリストが編曲しているらしいのですが、このオルガン版はこの日演奏したイヴ・レヒシュタイナー(Yves Rechsteiner)という人が編曲したもので、おそらくCDも出ていない珍しいものだと思います。

 オーケストラに比べてオルガンが勝っていると感じたのは、何よりも低音の地響きのするような轟きの迫力、それと狂躁を感じさせる速いパッセージの節回しで、教会の中で聴くので体全体が音に包まれたような感じになりました。1楽章、5楽章それに3楽章にそのオルガンの特性が活かされているように感じられました。クラリネットの音色は本物よりも明るく透きとおっているような印象。

 逆にオルガンの短所というのもあって、第4楽章の「断頭台への行進」のティンパニーの音は再現できていませんでした。歯切れのよい打音で畳みかけるようなところが、モワッとした柔らかな音になってしまっていたのが残念。繊細なフレーズやオーボエなどの音色にもオーケストラの音に比べて見劣り(聴き劣り?)するところがありました。終楽章の鐘の音はとてもリアル感があって、オルガンのパイプとは別の方角から聞こえてきたように思えたので、本当の教会の鐘を使っていたのではないでしょうか。

 神聖な教会のなかで、こんな悪魔的な音楽を響かせていいのかと、天罰で石が崩れ落ちやしないかと脅えながら聴いておりましたが、これはちょうど修道院の柱頭彫刻に幻想動物や悪魔をたくさん描いたのと同じようなものだと、心を鎮めておりました。

レヒシュタイナーのそばに日本人らしきアシスタントの女性がはべっていましたが、日本もオルガン演奏の機会が増えて人材が育っているという一つの証拠でしょうか。

 今回の旅行では、ほかにボルドーで、大劇場のマチネコンサートに紛れ込みました。大劇場という名の割にはこじんまりとした劇場(平土間230席ぐらい、全体でも1000席はないだろう)で、音響効果が抜群、豊かな音量に圧倒されました。バルコニー席が4層に高く天井まで積み上げられていて、19世紀のオペラハウスを彷彿とさせる古色のある空間で、こんなところで、ベルリオーズやネルヴァルが歌姫や踊り子に恋い焦がれていたのかと思いを馳せておりました。こういうところでオペラを聴いてみたい!