:GASTON LEROUX『LE FAUTEUIL HANTÉ』(ガストン・ルルー『呪われた椅子』)


GASTON LEROUX『LE FAUTEUIL HANTÉ』(Arcadia 1999年)
                                   
 このArcadia版は以前にも書きましたが、CLARINEというホテルチェーンが宿泊客のために用意したと思われる叢書。本としては珍しいものだと思いますが、字が小さくて読めないので、実際に読んだのは、生田耕作蔵書の『ROMANS FANTASTIQUES 2』(ROBERT LAFFONT 1964年)です。ROBERT LAFFONT版はとても部厚くがっしりした本で、カバーを取ると中は、堅牢な辞書のような趣きがありました。
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 Gaston Lerouxには推理小説以外に、怪奇趣味の作品があると聞いてはいましたが、基本はあくまでも推理にありそれに怪奇の味付けがしてあるということが分かりました。

 冒頭から、主人公が雑踏の中で謎めいた言葉を聞き、それにつられてある会場へ入ってゆくという状況設定で、読者の興味を惹きつけ先を読みたくさせるような語り口です。子どもの頃ルパンや江戸川乱歩を読んだ時に覚えたようなわくわく感があります。が同時に、そうしたものをいま読むと感じると思われるようなトリックの稚拙さがあるのは否めません。


 ネタバレになるので、詳細は伏しますが、概要を簡単に記します。
フランス・アカデミーの新会員をめぐる物語で、欠員ができて空いた席に座ろうとする三人の立候補者たちがつぎつぎに謎の死をとげる。一人は新会員挨拶の場で手紙の封を開けた途端、もう一人も新会員挨拶の場で突然目を押さえて、もう一人は挨拶の直前自宅でハーディガーディを演奏中に。その席が呪われており、エジプトのトートの秘密に精通しアカデミー候補に落選した学者(エリファス・レヴィを思わせるEiphas)が絡んでいるのではという疑念が持ちあがる。それは「匂いと光と音で死ぬ」という預言だった。その中で、無学の骨董商が三人の死は自然死だと信じて危険を冒して立候補する。このあたりからユーモア小説の様相を呈してくる(実は骨董商は文字が読めない)。その後、人里離れた館に大男の下男と凶暴な犬二匹と住んでいるアカデミー総裁の怪しい振る舞いから、総裁が三人の殺人に絡んでいるという疑念が強くなるが、総裁が自らの悲惨な境遇を涙で弁明するに至っていったん疑いは晴れる。満場はらはら見守る中で骨董商が無事新会員の挨拶を終えアカデミー会員入りを果たした後、総裁から「告白」と題された長文の手紙が来るが、アカデミー事務員が火にくべてしまい真相は謎のまま終わる。