:最近よく聴くCD―ヴュータン『6つのサロン風小品ほか』、ガーデ『ヴァイオリンソナタ1〜3番』

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『Henri Vieuxtemps :Six morceaux de salon,op.22/Voix du Coeur,op.53』Philippe Koch(Vn)、Luc Devos(P)(MEW)
『Niels W.Gade :Violin Sonatas1-3』Dora Bratchkova(Vn)、Andreas Meyer-Hermann(p)(cpo)


 前回音楽の記事(12月10日)で、ヴュータンをあれこれ聴きはじめたことを書きましたが、その後は、この二つのCDばかり聴いておりました。齢を重ね体力の衰えた身となってはオーケストラ作品は少し重苦しいような気がして、つい簡素明瞭な音の響きのほうへ行ってしまいます。ヴァイオリンとピアノというのは、コロコロと跳ねるようなピアノの音を背景に、ヴァイオリンがのびやかに歌うという感じで、とても相性が良いように思います。とくにこのCDに収められた曲は、アンコールで演奏されるような曲を集めた感じで聴きやすいです。


 前回は「Six morceaux de salon(6つのサロン風小品),op.22」の3曲目「Rêverie(夢想)」がお気に入りと書きましたが、その後他の5曲もそれぞれ素晴らしいことが分かりました。1曲目「Morceau brillant de salon(サロン風絶品)」は生き生きとして洒落ていて、2曲目「Air varié(変奏曲)」は明るくて軽く、4曲目「Souvenirs du Bosphore(ボスポラス海峡の思い出)」も穏やかで、5曲目「Tarentelle(タランテラ舞曲)」、6曲目「L’Orage(嵐)」は速いパッセージがあり(6曲目はタイトルどおり嵐を模写している)、それぞれが表情豊かで個性があります。

 同じCDに収められている「Voix du cœur(心の声),op.53」も5曲目の「Rêve(夢)」を筆頭に、素晴らしい曲ばかりです。「6つのサロン風小品」が27歳、「心の声」は60歳の時の作品ですが、48歳で妻を亡くし59歳で麻痺のため演奏活動を断念してアルジェへ隠遁し作曲に専念したと解説にあるのを読むと、心なしか「6つのサロン風小品」の時の勢いが弱まり、どことなく淋しそうに聞えてきます。とくに5曲目「Rêve(夢)」は悲しみと追憶に溢れています。その他の曲も、「Tendresse(優しさ)」「Mélancolie(憂鬱)」「Souvenir(思い出)」などのしみじみとしたタイトルにうかがえるように、穏やかな作品がほとんど。


 大阪駅前第一ビルにWというクラシック専門のCDショップがあり、そこで知らない作曲家の作品を漁るのを楽しみにしていますが、もう一つのCDガーデ『ヴァイオリンソナタ』はそうして買ったものです。

 デンマークの作曲家だそうで、メンデルスゾーンに師事したり、ライプツィッヒのゲバントハウスの指揮者をしたりしているようですが、私の印象ではドイツ音楽の厚みのある響きというよりは、フランス音楽のエスプリや、北欧音楽の淋しさが感じられました。

 一番印象的なのはソナタの1番で、1楽章の冒頭から、いきなり光が飛び跳ねるようなピアノに乗せて、ヴァイオリンが美しいメロディを奏でます。曲想もオリジナリティ溢れる印象を受けました。私が緩徐楽章が好きなこともあって、1番2楽章、2番2楽章、3番3楽章がお気に入りですが、いずれも単純なメロディーのなかに、物静かで穏やかな北欧風の冷たい淋しさが沁みてくるようです。